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YOSORO連載日本を良くする「仕掛け人たち」“心の健康維持”が生産性を向上させる──あらゆる悩みに応える200人のプロと起業家の挑戦
“心の健康維持”が生産性を向上させる──あらゆる悩みに応える200人のプロと起業家の挑戦

“心の健康維持”が生産性を向上させる──あらゆる悩みに応える200人のプロと起業家の挑戦

2023.09.14
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経済協力開発機構(OECD)のメンタルヘルスに関する調査では、日本国内でうつ病、うつ状態の人の割合は、2013年の調査では7.9%だったのに対して、2020年には17.3%と、2.2倍に増えている。

企業内では、新型コロナウイルス流行以降、オンライン中心のコミュニケーションの難しさなどから、メンタルヘルス不調は増加傾向にあるという。従業員がある日突然、心の不調を訴え、休職や退職をしてしまうケースは企業にとって大きなマイナス。2022年6月に全ての企業でハラスメント相談窓口の設置が義務化され、また常時50人以上の労働者を持つ事業場は産業医の選任を義務付けられているが、「社内に相談窓口を作っても従業員はなかなか相談できない」と株式会社Smart相談室CEOの藤田康男氏は言う。

藤田氏は「休職、退職せざるを得なくなる人を減らしたい」という思いから、株式会社SmartHRの出資を受け、2021年2月に株式会社Smart相談室を創業。2021年10月にSaaSの法人向けオンライン対人支援サービス「Smart相談室」をリリースした。様々な専門性を持ったプロフェッショナルのカウンセラーがオンラインカウンセリングを行うサービスで、中には従業員のおよそ20%が利用する企業もあるという。

なぜ、藤田氏はSmart相談室を立ち上げることにしたのか。過去に「マネジメントで課題を感じていた」という彼のキャリアを紐解きながら、オンラインカウンセリングサービス立ち上げの経緯に迫る。

プロフィール

プロフィール

Smart相談室 CEO 藤田康男

医療系事業会社で事業開発、組織マネジメントに従事、その経験から従業員の成長に課題感を持ち、2021年2月株式会社Smart相談室を設立。これまでのマネジメント経験から、従業員のメンタル不調に関して課題感を持ち、独自の視点から、課題に対するソリューション「Smart相談室」を提供中。 働く人の「モヤモヤ」を解消し、「個人の成長」と「組織の成長」を一致させることで社会に貢献したいと考えている。

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多様な専門職にさまざまな悩みを相談できる

──2021年10月にSmart相談室をリリースし、現在では170社が利用しているそうですね。Smart相談室とは、どのようなサービスなのでしょうか。

Smart相談室は契約された企業の従業員の方が利用できる法人向けオンライン対人支援サービスです。メインのサービスはオンラインでのカウンセリング相談です。

臨床心理士や公認心理師などの医療職や、産業カウンセラー、国際コーチング資格を所有するプロフェッショナルコーチ、キャリアコンサルタントなど、約200名のカウンセラーが登録されており、従業員の方は自分で相手を選んで、日程を調整の上、相談することができます。何人でも、何度でも相談できます。

カウンセラー相談のほかに、パワハラやセクハラを相談するハラスメント窓口、ストレスチェック、心のケアに関する知識を得られる学習コンテンツなどが利用できます。

──カウンセラーにはどのような相談ができるのでしょうか。

人にはさまざまな悩みがあります。過剰な業務やプレッシャーによる仕事上のストレスや、上司や部下などとの人間関係がうまくいかない、もっと仕事の成果を出したい、評価に不満があるなど、社内で発生する悩みはもちろん、家族間での人間関係や、親の介護、子育て、病気、異性関係、お金のこと、事故など、悩みはさまざまです。Smart相談室は、公私問わず、仕事の悩みかプライベートの悩みかに関係なく、どんな相談でもできるというのが最大の特徴です。

──会社と提携する産業医がいたり、社内にハラスメントや人事の相談窓口がある企業もありますが、それとの違いはなんでしょうか?

多くの企業では社内にハラスメント相談窓口やメンタルヘルスに関する相談窓口があっても、従業員はなかなか利用できないのが現実です。相談する相手が会社のいち組織なのですから、上司のパワハラについて申告するのはもし漏れたらと考えると勇気がいることですし、部下とのコミュニケーションの問題について相談すればマネジメント能力を疑われてしまうのではないか、と考えてしまうものです。

業務内容や評価に対する不満も会社には言いにくいものです。また、「うつ」かもしれないと自覚症状があっても、会社の産業医に相談すると周囲の人に知られてしまって変な目で見られたり、会社に知られてしまってマイナス評価になるのではないかと考えがちです。従って、社内相談窓口は使われにくいのが現実なのです。

私たちの提供するSmart相談室は従業員の方がオンラインでカウンセラーを予約しカウンセリングを受けることができますので、本人が希望すれば全く誰にも知られることなくプロに悩みを聞いてもらってアドバイスをもらうことができます。

会社にも同僚にも知られることなく相談が可能

──会社に対するフィードバックはどのように行うのでしょうか?

相談者の希望に沿って行います。もちろんハラスメントなどの申告などの場合は、本人の希望があった場合会社の担当部署に伝えます。今の時代、明らかなセクハラやパワハラというのは少なくなっていて、グレーなハラスメントが多いんです。

本人はこれはセクハラなのではないか、パワハラなのではないか、と感じていても、社会的にそれがハラスメントなのか、会社がハラスメントとして対応してくれるかどうかわからず、カウンセラーにまず相談してみて、確信を得てから、当社を通じて会社に告発するというケースもあります。

一方で、相談者が匿名を希望する場合には、会社には、相談者を特定できないようにぼかして、どのような悩みの相談が何件あったかということだけを報告します。

──なぜこのような事業を立ち上げたのでしょうか?

私は以前、医療従事者を対象とした人材紹介事業の運営会社でマネジメント職をしていました。私は部下から悩みの相談を受ける立場だったのですが、ほとんどの場合、悩みを打ち明けられる時には本人の中で限界を迎えていて、相談を受けてすぐに休職したり退職してしまうというケースが多かったのです。

こちらは悩みの初期段階に早く相談をして欲しいのですが、従業員は悩みに悩んだ末に体調を悪くしてから相談するというギャップは埋められないのです。

また従業員が抱えている悩みの内容も、セクハラやパワハラなどの社内の問題ばかりではなく、家庭の不和などプライベートの悩みも多いんです。そういう悩みは会社の上司や人事に相談しないんですよ。しかしそうした悩みからうつになったり体調を崩してしまう人は少なくありません。

これは社内に相談窓口があってもどうしようもないのだなということに気づき、社外にどんな悩みでも相談できる相談窓口を作るべきだと考えたのです。

自分で資金を集めて起業することも考えましたが、SmartHR創業者の宮田昇始さんと知り合い、SmartHRも事業領域を拡大するために投資しようと考えているという意向を聞きました。私も早くこの事業を立ち上げ、社会の役に立ちたいという思いが強かったため、SmartHRの出資を受けるかたちでグループ企業として創業しました。

200名のプロから自分にあったカウンセラーを選択

──外部相談窓口事業を行う会社は他にもあるかと思いますが、他社との違いはありますか?

前述したようにSmart相談室には臨床心理学、コーチング、キャリアカウンセリングなどさまざまな領域を得意とする約200名のプロフェッショナルが揃っていますので、相談者はカウンセラーのプロフィールを見て、得意分野や、年齢、性別など、自分にあったカウンセラーを選ぶことができますし、この悩みに対してはこのカウンセラーに、というように複数の人に相談することもできます。

また、心の不調で苦しんでいるということで産業医の先生に相談しても、実は悩みの本質がキャリアのことであったり、仕事の進め方のことだったり、部下の動かし方のことだったりして、産業医の専門外の悩みだったりすることも多くあります。

Smart相談室では、そうした場合には、相談を受けたカウンセラーが、次にコーチングを受けてみてはどうか、キャリアカウンセラーに相談したらどうか、といったアドバイスをすることもできます。コーチングひとつとっても、ビジネスコーチ、ライフコーチ、エグゼクティブコーチなど、色々な分野がありますからね。

月額1400円で利用し放題。従業員の20%が利用する企業も

──インターフェースもわかりやすく、利用するハードルが低いように思います。

悩んでいる人が気軽に使いやすいように徹底しています。一人ひとりのカウンセラーに顔写真と本人からのメッセージ、得意分野を掲載して選びやすく、申し込みやすいように、ビジュアルにも拘っていますし、相談までのステップ数も最小限にしています。

画像提供:Smart相談室


実際に、そうすることで多くの人が相談をしているという実績があります。現在、Smart相談室を利用されている企業の中には、従業員のおよそ20%の人が利用する企業もあります。これはかなり高い割合ではないでしょうか。

また、料金体系としては従業員1人あたり月額1400円(インタビュー時点の料金)で利用無制限(※)で提供していますので、会社側も従業員にどんどん使ってもらった方がお得になるという点も特長かと思います。企業の大きさにかかわらず気軽に使っていただけます。実際に利用されている企業は従業員10名程度の会社さまから1万名程度までさまざまです。

※契約内容によって上限が設けられている場合があります。

従業員の心の健康維持に加え、マネジメント見直しにも活用できる

──導入する会社にとってのメリットはなんでしょうか。

大きなメリットがあります。ひとつは従業員の方の心の健康維持です。厚生労働省の白書によれば、心の病気の患者数はこの20年以上ほぼ右肩上がりに増え続けています。そして日本の半数以上の会社で毎年休職者が発生しています。心の病気が深刻化すれば働くことが困難になります。

従業員が心の病気で急に休職したり退職してしまう、あるいはモチベーションやパフォーマンスが落ちてしまうことは会社にとって大きな損失です。Smart相談室は、休職率・離職率を下げ、生産性向上に寄与する可能性があります。

──最後に藤田さんが考える「日本を良くする」アイデアがあれば教えてください。

日本の企業は人口減少時代に入り人材不足が深刻化していますから、従業員は非常に貴重な存在です。悩みが深刻化して本人の心の問題が深くならないよう、早期の段階で専門の相談員に相談してもらうことが重要なのです。アドバイスを受けて悩みを解決したり、軽減したりすればベストですし、会社に相談があれば会社が対応できることもあります。

また、メンタルの不調を防ぐということだけでなく、コーチングによって仕事に対してポジティブになり、より成果をあげられるようになれば、会社にとってメリットは大きなものになるでしょう。

ハラスメントの訴えや、モチベーションが上がらない、自分のキャリアに不安がある、待遇や評価に納得がいかない、といった訴えは、企業のコンプライアンスの改善や、マネジメントの見直しに非常に役に立つ貴重な意見です。

さらには、サーベイやアンケートなどの定量調査では見えてこない従業員の定性的な声を聞けるという点で、大きなメリットがあります。Smart相談室は、悩みを抱える従業員と会社のギャップを減らし、従業員にとっても、会社側にとっても、低コストでメリットの大きなサービスだと考えています。このサービスを広く普及させることで、働く人の心の健康維持に貢献していきたいです。

文・写真=嶺竜一

編集=新國翔大

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