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YOSORO連載日本を良くする「仕掛け人たち」年間約2000万トンの“かくれフードロス”を削減、端材やざんさを「食品」に変える埼玉発のフードテック企業
年間約2000万トンの“かくれフードロス”を削減、端材やざんさを「食品」に変える埼玉発のフードテック企業

年間約2000万トンの“かくれフードロス”を削減、端材やざんさを「食品」に変える埼玉発のフードテック企業

2023.09.26
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まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品、いわゆる「フードロス」は世界的な社会問題になっている。消費者庁の発表によれば、日本は年間523万トンのフードロスが発生しており、国民一人当たりに換算すると”お茶碗約1杯分(約114g)”の食品が毎日捨てられている計算になるという。

だが、これはあくまで製品の売れ残りや食べ残しに限った話。食品工場の製造工程で発生する端材やざんさ、農家などで生産された規格外野菜、生産余剰農作物も含めると、フードロスの量は4倍以上の年間2531万トンに増えると言われている。

そんな食品工場の製造工程で発生する端材やざんさ、農家などで生産された規格外野菜、生産余剰農作物を“かくれフードロス”と呼び、それらを「食品」に生まれ変わらせることで、“かくれフードロス”の削減に取り組むスタートアップがいる。

それがASTRA FOOD PLANだ。同社は過熱水蒸気を用いて食材の風味の劣化と酸化を抑え、栄養価を残しながら殺菌・乾燥を行う「過熱蒸煎機」を利用して、食品ざんさや未利用農作物などアップサイクルし、高付加価値パウダー「ぐるりこ©」として提供している。𠮷野家の玉ねぎの端材から生まれた「タマネギぐるりこ©」を使用し、ベーカリーチェーンのポンパドウルとオニオンブレッドを開発・販売するなど、成果も生まれつつある。

先日、累計2.2億円の資金調達を発表したASTRA FOOD PLAN。「もともとは父親の会社を継ごうと思っていた」と語る、代表の加納千裕氏はなぜ起業の道を選んだのか。決断の裏側にあったのは父親が取り組んできたことを形にするという娘の執念、そしてサスティナブルな社会を実現する循環型フードサイクルの構築を目指すという強い想いだった。

プロフィール

プロフィール

ASTRA FOOD PLAN代表取締役 加納千裕

埼玉県出身。女子栄養大学 栄養学部を卒業後、株式会社ロック・フィールドで製造・販売に従事。その後、株式会社榮太樓總本鋪で商品企画・新ブランド「にほんばしえいたろう」の立ち上げを担当、株式会社塚田農場プラスでは弁当の商品開発に従事。キャリアの過程では、父である加納勉が創業した会社において、過熱水蒸気によるピューレ製造技術を用いた商品開発から販売営業まで一貫して担い、過熱水蒸気オーブンの法人向け営業にも従事。同社退職後2020年8月、過熱水蒸気技術を用いた新事業としてASTRA FOOD PLANを設立。

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「父親の取り組みを形にする」という娘の執念

──加納さんは一貫して“食”の業界でキャリアを積まれています。

父親が食品関係の会社を立ち上げており、母親は栄養士の資格を持っていたこともあり、小さい頃から食に対する興味が強かったんです。女子栄養大学 栄養学部を卒業後は、新卒で惣菜の製造・販売を手がけるロック・フィールドに入社しました。

その後、創業から150年以上続く老舗の和菓子店・榮太樓總本鋪では商品企画や新ブランド「にほんばしえいたろう」の立ち上げを担当したほか、弁当などの中食事業を展開する塚田農場プラスでは弁当の商品開発に従事しました。

その傍ら、父親が立ち上げた会社の手伝いもしていて。最終的には父親の会社に入社し、そこでは主に商品開発や販売営業などを担当していました。

──お父さんの会社はどのような事業を展開されていたのでしょうか?

父親は昔、セブン-イレブン・ジャパンの役員を務めていた際、コンビニ弁当に食品添加物が多く含まれていることに課題を持っていました。

「どうにかして食品添加物の量を少なくできないか」という思いで、さまざまな食品加工技術を探していたところ、高温の水蒸気によって瞬時に加熱調理することで、栄養や美味しさを逃がさない「過熱水蒸気」という技術を見つけたんです。シャープの「ヘルシオ」やパナソニックの「ビストロ」に使われている技術と言えばイメージしやすいかもしれません。

今でこそ当たり前のようにオーブンレンジやトースターなどに使われている技術ですが、2000年ごろに過熱水蒸気を食品に活用している人は誰もいなくて。父親は過熱水蒸気の技術を知るやいなや、一気にのめり込んでしまい、セブン-イレブン・ジャパンの役員を退職し、自ら過熱水蒸気を食品に活用することを目的とした会社を立ち上げたんです。

当時、研究開発の参考になりそうな論文はひとつもなく、私も手伝いながら試行錯誤を繰り返していきました。最終的に過熱水蒸気によるピューレ製造技術を用いた商品や過熱水蒸気オーブンを開発することができたのですが、エネルギーコストが高いなどの技術的な難もあって事業化が難しく、結果的には、どの事業も上手くいかず、志半ばで頓挫してしまいました。

父親が引退するとき、父親の会社で役員を務め、私の上司だった吉岡久雄(ASTRA FOOD PLAN専務取締役)が、前職で開発を経験していたこともあり、「この技術をここで終わらせるのは勿体ないですよ。今の課題を解消するアイデアがあります。ただ、経営に関する知識はないので、経営は加納さんが見るかたちで一緒にやりませんか?」と私に声をかけてくれたんです。

──その言葉がきっかけとなり、ASTRA FOOD PLANを立ち上げた。

もともとは、父親の会社を継げればいいかなと思っていたんです。ただ、父親は長年努力を続けてきたものの、結果的にはどの事業も上手くいきませんでした。

そうした背景もあり、父親の会社も筆頭株主が父親ではなく、海外の投資家が株の過半数を持つようになっていました。なかなか会社の業績が上がらない状態が続いていたため、父親は株主たちから退任を迫られたんです。

その際、父親は「自分が代表を退任することで会社が存続し、働く社員たちの雇用や生活が守られるのであればやめる」と言い、持ち株も無償で会社に返却し、代表を退任する道を選びました。ところが、父親の退任後、残った社員も全員解雇されることになって……。私としてはすごく悔しかったんですよね。

父親が今まで一生懸命がんばってきたことは何だったんだろう、と。別の会社に転職する選択肢もありましたが、父親が今まで取り組んできたことをここで終わらせてはいけない、絶対に形にしようと思い、ASTRA FOOD PLANを立ち上げることにしました。「怒り」や「悔しさ」が起業の原動力ですね。それがなければ、起業していなかったと思います。

乾燥と殺菌を同時に実施、過熱蒸煎機が生む食品の新たな可能性

──そこから、どのように現在の「過熱蒸煎機」を開発したのでしょうか。

従来の過熱水蒸気を発生させる方法は、ボイラーを使って水をお湯にし、さらにボイラーを使って飽和水蒸気を発生させ、それをヒーターで再加熱というものでした。過熱水蒸気を発生させるのに大幅なコストと時間がかかっていたんです。

2020年8月の創業時から吉岡が中心となって研究開発を進め、2021年7月に弊社独自の技術である「過熱水蒸気発生装置」(特許出願中)を開発しました。詳しい仕組みは明かせませんが、従来の方法よりも大幅な低コスト化を実現しています。

そこに熱風乾燥機の技術を組み合わせるかたちで、「過熱蒸煎機」が生まれました。最終的な機械はオーブンから乾燥機に変わりましたが、過熱蒸煎機は父親が約20年間、研究を行ってきた過熱水蒸気技術を応用し、開発したものと言えます。食材の栄養価や風味・色を劣化させることなく瞬時に加熱して加工するという意味では同じです。

食品を乾燥させる技術としては、一般的にフリーズドライや熱風乾燥機が知られていると思います。フリーズドライは高品質かつ形状を残せるのが最大の特徴ですが、導入費用が数億円かかります。一方の熱風乾燥機は導入費用が数百万円と安いのですが、熱をかけ続けるため酸化し、風味が劣化するため限られた使い方しかできません。また、両者とも殺菌ができないので、先に茹でたり、蒸したりしてから乾燥機に入れる工程も必要になります。

そうした中、過熱蒸煎機は導入費用が最小モデルで1500万円ほどと両者の中間に位置し、乾燥時間も5〜10秒ほどと短く、殺菌も同時に行えます。また品質も高い状態を維持でき、風味が良好であることも大きな特徴です。従来の食品乾燥技術の良いとこどりをしているイメージです。

──なぜ、“かくれフードロス”と呼ばれる端材やざんさに目をつけたのでしょうか?

私自身、食の業界で長くキャリアを積んできたこともあり、食品工場などで端材やざんさが“かくれフードロス”として問題になっていることは知っていました。

端材やざんさをアップサイクルする方法は堆肥にする、家畜の餌にするといったものがメインで、工場側は無料で持っていってもらうか、1kg10円単位で販売するしかありませんでした。光熱費や人件費などのコストだけがかかってしまうことになります。そのため、多くの工場では「コストが安い」という理由で端材やざんさを捨ててしまっていたのです。

食品工場で発生する端材やざんさは単一の原料の形をしているので、お弁当や惣菜などの製品になったあとの残飯とは異なり、粉末化に適した原料になります。過熱蒸煎機によって、食品原料にアップサイクルできれば、今まで捨てていたものが1kg数千円という金額で販売できるようになると思ったんです。

また、端材やざんさは菌数が高く、しっかり殺菌しなければなりません。その点、過熱蒸煎機は加熱と殺菌が同時に行えるので、相性が良いと思いました。

料理代行で食い扶持をつなぐ、2年間の研究開発で見えた道

──立ち上げから3年が経ちましたが、手応えは感じていますか?

ようやくスタートラインに立つことができたと思っています。それこそ、立ち上げからの2年間は大変なことばかりでした。最初は過熱蒸煎機が開発できれば、ニーズもあるし自然と売れていくだろうと思っていましたが、全くの見当違いで全然売れなかったんです。食品業界は保守的な傾向にあり、新しいことはやりたがりません。

また「端材やざんさがパウダーになるのはわかったけど、販売先はあるんですか? 販売先があるんだったら導入してもいいよ」といった声もたくさんもらいました。そこで機械を開発しただけでは導入してもらえない、ということが分かったんです。

そのため、機械開発後はいろんな食品メーカーと実証実験を繰り返すなど、パウダーの用途の解像度を上げていくことにしました。2年間はほぼ売り上げゼロの状態です。自分にお給料も払えないので、当時は空き時間に料理代行の家政婦の仕事をすることで、日々の食い扶持をつないでいました。

──振り返ってみて、どこが転機となりましたか?

ASTRA FOOD PLANにとって大きな転機となったのは、𠮷野家とポンパドウルとの共同プロジェクトです。𠮷野家の野菜加工工場では、牛丼用玉ねぎの端材が1日700kg、年間に換算すると250トンくらい発生しており、それらは今まで捨てられていました。

𠮷野家はそうした状況に課題を持っており、私たちの会社に問い合わせがあったんです。そこから一緒に牛丼用玉ねぎの端材を細かく刻み、過熱蒸煎機に入れて粉末化したところ、高品質で風味の強い玉ねぎパウダーが出来上がりました。ただ、𠮷野家の中では使い道がなく、どうしたものかと思っていたところ、ポンパドウルが「野菜パンを作りたい」というニーズを持っており、玉ねぎパウダーを使ってパンをつくることになったんです。

「過熱蒸煎機」によって風味、栄養価の減少を抑えながら製造される高付加価値パウダー 画像提供:ASTRA FOOD PLAN

市販の野菜パウダーはそこまで香りが強くないので、たくさん練り込まなければ風味や色味が出ず、原価が高くなってしまいます。一方、過熱蒸煎機によって作った玉ねぎパウダーは風味が強いので、少し練り込むだけでしっかり味が出ます。

𠮷野家としては今まで捨てていたものを食品原料にアップサイクルでき、食品メーカー側は美味しい新食品が作れる。お互いにとってメリットのある取り組みにしていけるなと思いました。

実際、𠮷野家とポンパドウルと共同で開発した「オニオンブレッド」を発表したところ、すごく反響があり、私たちが目指すべき方向性は間違っていないと確信を持つことができました。そこから、食品工場側から「この原料を使えませんか?」と連絡をもらえるようになりましたし、食品メーカー側もSDGsやサステナビリティへの関心が高まっていることから、アップサイクルされた食品原料を使った食品作りへの意識も強くなってきています。

時間はかかりましたが、ようやくスタートラインに立つことができました。現在、過熱蒸煎機を通じて製造した食品パウダー「ぐるりこ©」と名付け、提供し始めています。

食の循環型モデル構築し、全国に展開していく

──最後に今後の展望についても教えてください。

𠮷野家とポンパドウルの共同プロジェクトをきっかけに、食品工場・食品メーカーからの引き合いも増え、いろんな取り組みが進みつつあります。今後は社内で研究開発と事例作りのスピードを上げていき、ビジネススキームの確立を急ぎたいと思います。

現状は食品工場・食品メーカーとの取り組みが中心ですが、農家でも生産した野菜の30〜40%は規格外野菜で捨ててしまっているみたいなんです。それをアップサイクルする仕組みをつくり、農家さんが今よりも儲けられるようにしていきたいと思っています。そうすることが、将来的な農家不足の解消に繋がっていくはずです。

実際、今年の7月から「埼玉 食のサーキュラーエコノミープロジェクト」を始動させています。これは埼玉県内の農業生産者において発生する、規格外野菜や天候理由などによる余剰農産物をJAいるま野が集荷し、当社の過熱蒸煎機でパウダー化。

そこで生まれた食品パウダー『ぐるりこ©』を用いたレシピ開発を女子栄養大学と日本薬科大学、県内事業者と連携して実施し、給食センターや富士見市商工会、その他埼玉県内の食品事業者と協力することで、埼玉県を中心とした一般のお客様に販売、また富士見市内の学校給食で提供していくというスキームです。

まずは埼玉県内における食の循環型モデル構築を目指していき、そこでの知見やノウハウを外に展開し、日本全国に食の循環型モデルを波及させていければと考えています。

文=新國翔大

編集=福岡夏樹

写真=小田駿一

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