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YOSORO連載日本を良くする「仕掛け人たち」“言わなくても通じる”の価値観が通じない時代に──「話す力」という武器を配る起業家の願い
“言わなくても通じる”の価値観が通じない時代に──「話す力」という武器を配る起業家の願い

“言わなくても通じる”の価値観が通じない時代に──「話す力」という武器を配る起業家の願い

2023.08.08
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営業やプレゼン、採用面接、メンバーとの1on1──ビジネスにおいて「話す力」が求められるシーンは意外と多くある。その一方で、「話す力」に課題意識を持つビジネスパーソンは多い。「伝え方」「プレゼン力」をテーマにしたビジネス本は書籍の売れ筋ランキングの常連となっていることは多くの人が知っているところだろう。もしも、一人ひとりの話す力が一気に向上したら……社会はどう変わるのだろうか?

「一人ひとりの話す力が高まれば、確実に世の中は良くなると思っています」

そう言い切るのは、「伝え方のトレーニング」を軸に事業を展開しているカエカ代表の千葉佳織氏だ。

カエカでは話す力を数値化し、伝え方をトレーニングするサービス「kaeka」のほか、伝える力を約30分間の口頭試験を通じて可視化するサービス「kaeka score」を展開している。kaeka scoreは回答結果をもとに言語力や構成力、話し方を数値化し、100点満点のスコアを目指す。

最近では、2023年4月に兵庫県の芦屋市長選に次点の候補者と2倍近い得票で初当選し、史上最年少市長となった高島崚輔氏がkaekaを通じて演説のトレーニングをしていたことも話題を集めた。

「将来、教科書に載るような意味のあることを成し遂げたいと思っていました。私の場合、それが“話す力”だったのです」と千葉氏。彼女はなぜ「話す力=教科書に載るような意味のあること」と感じたのだろうか。インタビューで彼女の口から語られたのは、決して侮れない「話す力」の可能性だった。

プロフィール

プロフィール

カエカ代表取締役 千葉佳織

大学卒業後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。小説投稿サイトの企画を経て、人事部で新卒採用を行いながら、同社初のスピーチライターの業務を立ち上げ、イベントや採用の登壇社員育成、代表取締役社長のスピーチ執筆など、部署横断的に課題解決に取り組む。2019年、株式会社カエカを設立。経営者(上場企業やIPO前)、政治家(国会議員・首長・地方議員)などを対象とするスピーチライティングやスピーチトレーニングを手掛ける。

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DeNA時代に加速した、話し方の必要性を広めたい気持ち

──千葉さんは学生時代にアナウンサーを目指していたと聞きました。

もともと、私は15歳の頃から日本の弁論大会に出場していました。これは、自分で原稿を作成し、話し方を練習して参加するスピーチ大会のようなものです。2011年に安達峰一郎世界平和弁論大会で優勝、2012年に内閣総理大臣賞椎尾弁匡記念杯全国高等学校弁論大会で優勝する機会をいただきました。

そういった経験もあり、大学時代では「アナウンサーになる」ことを就職活動のゴールにし、そのために必要なことにはすべて取り組みました。就職活動で全国30局のテレビ局アナウンサー試験を受けたのですが、結果的にはすべて不合格になってしまって……。そこから、「一度書いていた理想の将来像を白紙にして新たな挑戦をしよう」と決意し、入社したのがDeNAでした。

DeNA時代は、小説投稿サイトの企画職と同時並行で副業としてスピーチライター・トレーナーをしていました。新卒2年目の時「DeNA内の登壇社員の伝え方のトレーニングがしたい」と提案し、人事部へ異動。新卒採用部のフロント業務をしながらスピーチライター・トレーナーとして、社長のスピーチ原稿執筆のほか、人事部や他部署の営業職向け、DeNAが主催するエンジニア向けの技術カンファレンス「TechCon」に参加するエンジニア向けにスピーチトレーニングをしていました。

──DeNA時代も「話す力」に注目し続けていたんですか?

話すことの楽しさや可能性を広げていきたいという気持ちはずっとありました。それまでの私の人生では、弁論大会に出ていたこともあり「話し方を極めるのは当たり前」でした。でも、DeNAへ入社して話し方を学んだことがない人が多いと知り、そこに大きな可能性があると思ったんです。ビジネスシーンで重要なスキルだからこそ話し方を学ぶ大切さを広めていく必要性はあるのではないか、と。

──なぜ、あえて起業を選んだのでしょうか?

話し方を事業にした企業をスタートアップとして立ち上げる人はほとんどいません。ブルーオーシャンだからこそ、自分の専門領域でトラクションを積み重ね、VCから資金調達をすることで事業拡大するチャンスのある分野だと思いました。

また、DeNA時代に「話し方を学んだことがない人が多い」という現状を目の当たりにし、話し方を学ぶための事業にニーズはあるのだと確信もしていました。独立すれば、つくりたい世界に向けてスピード感を高められます。「教科書に載るような意味のあることを成し遂げたい」と考えていた私にとって、独立するほうが理想へ早くたどり着けると思いました。

独立する際に意識したのは、「お客様の本当の課題を把握すること」「話す力を数字化すること」の2つです。従来の話し方を教えるような講座には教師となる人の経験則をもとにした指導が多く、本当の意味での解決になっていないことに課題を感じていました。

「自分の話し方を変えたい」「もっと伝わるように話したい」と思っているにもかかわらず、そもそも何が課題かを把握できていないままトレーニングが進められてしまうことがほとんどだったのです。例えば、話す内容自体を変える必要があるけれど「表情を豊かにしてください」という指導になっているなどですね。

そこでカエカでは、テクノロジーと専門家の知見を掛け合わせて、話す力を数字化しました。2023年1月からは約30分間の口頭試験を通じてお客様の話す力を診断するkaeka scoreの一般販売もスタートさせています。これによって、最初のスコアからどのように変化しているのかを客観視できます。説得力が増すので、企業内での研修としても取り入れていただき、喜んでいただいています。課題の可視化とかアウトプットの数字化は大事です。

話す力が高まると生き方や価値観も変化する

──カエカは2019年12月に創業しています。3年半ほど経ちますが、手応えをどう感じていますか?

やはり目指すべき方向は間違っていなかったのだな、と感じています。サービスを通じて話す力を数字化したことで、学習形態も大きく変えることができました。kaekaを体験されたお客様のなかには、サービスを口コミで広げてくださっている方もいて嬉しい限りです。

──サービスの利用者はどういった方が多いのでしょうか?

現在は4000人ほどのお客様にサービスを提供しています。お客様の中にはスピーチやプレゼンの成功体験を増やしたく、失敗体験を引きずっている人もいれば、マネージャーだから言語力を高めたいという人、インタビューの質を上げたい編集者、コミュニケーションスキルを高めたいエンジニア、事業を拡大させたい経営者……。さまざまな方がニーズを感じて、kaekaの門を開いてくださります。

ただ、どのお客様も自分の話し方を客観的に見ていて、「もっとこうしたい」という気持ちを持っています。そういう意味では、向上心が高いお客様が多いと言えるかもしれません。

──自分の話す力に課題を感じたら、まずチェックしたほうがいいことはありますか?

話す力を見直すときは「話し方」と「内容構築」の2つにスキルを分解してチェックすることが大事です。前者は、声の大小やスピード、音程、身振り、姿勢などが該当します。そのうち、どれを良くすべきかを見つけて克服していきます。ただ、目に見えるものではないので、kaekaは客観視できるように数値化して、トレーナーからのフィードバックを受けながら解決していくことになります。

後者に関しても、「適切な構成で話せているのか」「目的を定め、適切なコアメッセージが確立できているか」「コアメッセージを裏付ける適切な情報比率が保たれているか」などと、細かく分解して現状を理解することが重要です。

よくあるパターンが自分の話している情報の性質を理解していない、ということです。自分の話している内容が「事実情報をもとにした外部情報」を多く含んでいるのか、「気持ちや経験をもとにした内部情報」を多く含んでいるのか、割合を認識するところから始めてみることをおすすめします。外部情報ばかり含めて話すと「堅苦しい話になっていた」、内部情報ばかり含めて話すと「自分の思いばかりでとりとめがなかった」といったことに気づけます。

──話す力を向上するために意識すべきことは何でしょうか?

よく「話す力を向上するために“これだけは意識すべきこと”はありますか?」と聞かれるのですが、「たったこれひとつ」という決定的な方法はありません。仮にひとつの決定打があれば、誰も話し方に苦労しないはずです。ただ1つだけ言えるのは、「今何が課題なのか」を理解したほうがいいということです。これがわからないと、解決策を考えられませんので。

課題を知る近道は、ご自身の話し方を録音して聴き、「意識すべきポイント」を把握すること。自分の声を聴くことに抵抗を感じる方は多くいらっしゃいます。でも、これがとても効果的なのです。声の大きさや強調するポイント、アクセントの付け方、言葉のわかりにくさなど課題の多くはこの方法で大まかに理解することができます。

私たちは理想の伝え方を実現するために、伝え方トレーニングサービスを提供していますが、「絶対にこう話さなければならない」というものを定めていません。私たちのサービスに関しても、目指したいパーソナリティと話し方に近づくため、自分自身を客観視し、反復練習するためのツールとしてご利用いただいています。

──自分の話し方を改善できると、パーソナリティにも変化がありそうです。

そうですね。お客様のなかには、以前に比べて前向きになったり、能動性が高まったりといった感想を届けてくれる方がいます。カエカでは話し方のスキルはもちろん、「なぜこのような話し方になったのか」「自分にしか話せない価値ある内容はなにか」「どういう軸を持ちながら仕事をするのか」を深掘りし、相手に伝わるように話していただきます。この過程を経ることで、伝え方の変化だけでなく、最終的にはご自身の生き方や価値観にもいい影響があった、と言っていただけます。

日本人の「阿吽の呼吸」が通じにくい今の時代にこそ求められる「話す力」

──千葉さんは「教科書に載るような意味のあることを成し遂げたい」と話していました。そのうえで「話す力」に着目したのはなぜだったのでしょうか。

話す力は、その人の評価に直結します。キャリアでも、自分自身を売り込む「面接」から第一歩を踏み出すことになります。ならば、自分が何をしてきたのか、何をしたいのかをちゃんと話せた方がいいはずです。

企業の場合でも、良いブランディングメッセージは称賛されますし、謝罪会見のような逆境の場面でもしっかり話せるとプラスの印象に転じる可能性があります。うまく伝えるための話し方が世の中に浸透すればコミュニケーションがスムーズになるだけでなく、さまざまな事業や企業が成長しやすくなり、社会はもっと良くなると思っているんです。

──たしかに、社会人だけでなく、政治家も含めて言いたいことがちゃんと伝わっていないケースは多いです。

特に政治家の方々は特殊な世界に身を置いていることもあり、うまく話せないと世間からのバッシングに繋がりやすかったりします。そのため、無難なことしか言えなくなり、結果的にメッセージが伝わらなくなりがちです。また社会人に関しても、若いうちは上司などからフィードバックをもらえるものの、ある程度の地位になると指摘してもらえなくなります。

上場企業の社長や経営者レベルになるとより社内のメンバーが指摘しづらくなるため、「kaekaのトレーナーから、代わりに指摘してほしい」と依頼されることもあります。

──話し方を磨くことで、日本の社会はどう良くなっていくと思いますか?

日本語は、少ない息の量で発声できる言語だと言われています。この要素が、海外の話し方に比べて堂々としていない印象に影響していると言われていたり、集団の和を重んじてきた歴史的な背景もあり、自分の主張として話す機会も多くありませんでした。阿吽の呼吸と呼ばれるものがあるように、「話さなくても伝わる」という意識も根強く残っています。

しかしながら、今の時代では「阿吽の呼吸」は通じにくくなっています。みんな違うコンテキストや前提を持っているなかで話す必要がありますし、SNSでの交流が当たり前でもあるので、発言が意図しない切り取られ方をして、気づくと炎上していたなんてことも日常茶飯事になりました。

「話さなくても通じる」という考えは否定しませんが、過信しすぎるのは今の世の中に合っていません。だからこそ、自分の理想的な話し方を身に着けて正しく情報を伝える術を、私は広めていきたいのです。

文=福岡夏樹

編集=新國翔大

写真=小田駿一

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