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YOSORO連載日本を良くする「仕掛け人たち」メルカリ出身起業家が着目した“建築業界”──「建築家と家を建てる」で理想の暮らしを当たり前に
メルカリ出身起業家が着目した“建築業界”──「建築家と家を建てる」で理想の暮らしを当たり前に

メルカリ出身起業家が着目した“建築業界”──「建築家と家を建てる」で理想の暮らしを当たり前に

2023.11.02
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家族のカタチ、働き方、一人ひとりの過ごし方……。コロナをきっかけに家で過ごす時間が増え、人の暮らし方が多様化している今、家に求められるニーズも多様化してきている。

量産された規格によって合理的に作られた画一的な間取りの家を選ぶだけではなく、自分たちのニーズにあった、ただ一つの家を設計建築してもらう。そんな選択肢が、もっとポピュラーで当たり前になればいい。そのために外資系金融企業、メルカリといった企業でキャリアを積んできた桂竜馬氏は青山芸術を2020年に立ち上げた。

建築家に家を建ててもらいたい人と建築家のマッチングサイト「titel(タイテル)」、設計事務所が案件やタスクごとにタッグを組むことで建築設計のリソースを最適化するマッチングプラットフォーム「アーキタッグ」という2つのサービスを展開する。どんなサービスなのか、建築から日本をどう変えていこうというのか。桂氏に話を聞いた。

プロフィール

プロフィール

青山芸術 代表 桂竜馬

慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、ドイツ銀行グループ、ゴールドマン・サックス東京支社及びニューヨーク本社にて M&A・ファイナンシングのアドバイザリー業務に従事。
その後株式会社メルカリに入社し、創業者直下の会長室にて M&A や戦略立案の担当を経た後、Head of New Business / 越境 EC 事業 事業責任者 / プロダクトマネージャーとして、プロダクト開発並びに新規事業開発の責任者を担当。

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家を建てる人と建築家の距離を縮めたい

──建築家に家を建ててもらいたい人と建築家のマッチングサイト「titel」を立ち上げて起業されたそうですね。その背景にあった思いを教えてください。

父が商社で建築関係の仕事をしていたことも影響していて、子供の頃から建築に興味があって、特に建築家の建てる家や建物が大好きでした。建築雑誌を読んで建築家に憧れ、建築家の系譜を調べたり、実際に建物を見に行ったりもしていました。紆余曲折あって私は金融の道に進みましたが、弟は建築学部を出て設計事務所で働いています。

日本の建築家は昔から、世界で一番レベルが高いと言われています。地震大国で強固な構造を設計する技術に加え、芸術的なデザイン性も高いと世界中にファンがいる方々なんです。

家族構成や生活習慣、趣味や仕事、家族みんなの好みや思い、30年後、50年後の家族の姿も思い描いて、一つひとつの空間をゼロから考え、動線をつないで、街とも調和した、たった一つの家を設計する。その理想の設計図に合わせて最良の工法や部材を選んで建築する。私はそういう建築が好きなんです。

今の日本の家は、多くがハウスメーカーや地場の工務店によって建てられています。家を購入しようと思った方の多くは、テレビCMの印象も強いからか住宅展示場に行ったりして、ハウスメーカーが新築した戸建ての物件を“選び”ます。ハウスメーカーは得意とする工法を使い、量産部材を使って、自社の規格に合わせて家を建築します。規格を揃えた住宅を多く生産することで家の単価も下がるビジネスモデルかなと思います。

それはとても合理的な方法で、その選択肢で理想の家を建てることができたら、その選択は全く間違っていないと思います。しかし、もしかしたらその中には建築家にお願いした方が理想の家ができる人がいるかもしれません。

ただ、多くの人は建築家を知らなかったり、どうやって頼めばいいのかわからなかったり、建築家に頼むとすごくお金がかかると思い込んでいたりして、その選択肢を持たないままハウスメーカーに行くことが多いのが現状です。

一方で建築家さんたちは職人気質な方々が多かったり、少数精鋭の事務所には広報担当がいなかったりすることも多く、マーケティングや集客を積極的にしていない方が多いんですね。非常に優れた建築家さんでも、仕事の波があったり、余力のある方も実際にはいらっしゃる。限られた予算の中でシンプルで素敵な建築を作る方がむしろ得意という建築家の方もいらっしゃる。その間にある距離がもったいない、もっと縮まればいいのにと以前から思っていました。

──そうした想いを胸に2020年に起業された経緯は?

私は新卒で金融業界に入り、2018年にメルカリに転職したのですが、メルカリに入社するときから数年後には起業したいと考えていましたし、そのことを創業者の山田進太郎さんにも伝えていました。進太郎さんやメルカリの方々は独立を応援してくれてとてもありがたかったです。

起業を後押ししたのは新型コロナウイルスが流行したことです。働き方が変わって、暮らし方も変わりました。多くの企業が在宅ワークを取り入れて毎日通勤する必要がなくなったので、少し会社から遠くなっても広い土地に家を建てたいと思う人が増えた。それに伴って、家の中にワークスペースを作る必要ができましたし、家族が一緒にいる時間が増えました。

緊急事態宣言で子供たちも外に遊びに行けなくなったりして、ライフスタイルが大きく変化したんですね。その結果、家に求める要素が増えたり変わったりしていたんです。そうした家族が新しい家を建てたいと思った時に、僕はもっと多くの方に建築家さんと繋がって欲しいと思ったんですよね。

アフターコロナにこそ建築家さんにお願いして、それぞれのライフスタイルに合った理想の家を建ててもらう選択肢がもっと一般的になるべきだと。それでメルカリに在籍中の2020年の3月に開発をスタートさせました。

仲間になって欲しい人に認めてもらうため自ら開発を行った

──プログラミングの経験はないのに、自分で勉強してサービスを作ったと聞きました。なぜでしょうか。

自分で技術のことを深く理解しておきたいという背景もありましたが、今、当社でCTOをしている久野慎弥に認めてもらいたいという思いが実際は強くありましたね。

メルカリがM&Aをした会社のPMI(合併後の統合)を私が担当しているときがあって。その時に久野が経営陣の一員だったマイケルという会社がM&Aでメルカリグループに入り、その後はメルカリ内の同じ新規事業チームで一緒になり、彼の能力や仕事ぶりに私は惚れ込んだんです。

彼はフルスタックでなんでも開発ができる非常に能力が高いエンジニアなのはもちろん、経営やビジネスのことも考えられる人で、僕はどうしても久野と一緒に会社を立ち上げたいと思っていたんですね。それで久野をずいぶん飲みに誘って口説いたりしたのですが、なかなか首を縦に振ってくれなくて。久野と創業したいことは変わらなかったので、だったら彼が認めてくれるまで自分でやるしかない、と。

──久野さんに本気を見せるために自分で開発をすることにしたのですか。

実際は久野にもいろいろ教えてもらいながら自分でコードを書いていったのですが、彼に「こいつとだったら一緒にやってもいいな」って思ってもらえるように頑張っていたところはありましたね。一緒に創業したとして、ちゃんと課題に向き合って乗り越えていける経営者だと、その覚悟がある人間だと思ってもらいたかった。

それにITビジネスをするのにプログラムのスキルをある程度持っておいた方がいい。自分の手で開発したことで、こういう機能を持たせるにはどういう処理をしなくてはいけなくて、その開発はどれくらい高度でどれくらい工数がかかるのかといったことの、解像度が上がったのはとても大きかったです。

50組の建築家が登録、titelを介すメリット

──2020年10月に青山芸術を起業し、titelをリリースしました。順調でしたか。

サービスの開発は順調で2〜3ヶ月でできたのですが、最初に登録してくださる建築家の方を集めるのがとても大事で、そこに一番時間をかけました。まだ会社もサイトもないところで、登録していただきたい建築家の方にお声がけをし、実際に足を運んで、構想をお話しして、登録していただくというのは簡単ではありませんでした。

ただし、その時に登録してくださった方々は、業界外から来る私のような者の新しい挑戦にもみなさん温かく賛同してくださったんです。数々の賞をとっているような非常に有名な建築家の方にも多く入っていただいて、20組くらいの建築家さんとともに、非常にいいスタートが切れました。今は50組ほどの建築家の方が登録してくださっています。

titelにはさまざまな建築や作品が並んでいる 

──有名建築家となると、titelを通じなくても仕事が引きも切らない状態だと思います。そうした方がtitelに登録するメリットとはどういうものなのでしょうか。

家を建てたい方と、建築家さんとのマッチングですね。施主さんにとって家を建てるというのは一生に一度の大きな決断です。建築家を決めるということは、結婚することと似ていて、一生に一人のパートナーを見つけるということだと思うんです。

いろいろな考え方やセンスを持った建築家さんがいる中で、自分にあったただ一人の建築家さんに決めるというのは、そう簡単なことではありません。

一方で建築家さんにとっても、要望を聞くところから構想、設計、完成まで長ければ1年以上の時間をかけて全精力をかけて取り組むものですから、お客様とのマッチングはとても大切です。titelは単なるインターネット上の情報マッチングサイトではありません。

当社には一級建築士のスタッフもいます。私たちが施主さんにお会いして、何時間も何回もヒアリングをし、「あなたの理想を叶えるのに適した建築家さんはこの方です」という確信を持ってから紹介します。いろんな建築家さんの設計プロセスを何度も間近で見させていただいているので、建築家さんと施主さんがお互いにどういう人が合いそうかというのは情報がずっと蓄積されていっています。

施主さんは最後まで迷うものです。ハウスメーカーに依頼することも最後まで選択肢として残っている人は多く、当社もハウスメーカーや工務店が合いそうな施主さんには正直にそうお伝えするようにしています。ただ、建築家に依頼したい人や依頼すべき人が瀬戸際で悩んでいる時に、その方の後押しをすることも含めて、私たちのプラットフォームに登録してくださっている建築家さんは、お客様との出会いに期待して賛同してくださっていると思います。

設計事務所の「仕事の波」を解消するプラットフォーム

──2つ目のサービスとして、設計事務所が案件やタスクごとにタッグを組むことで建築設計のリソースを最適化するマッチングプラットフォーム「アーキタッグ」をリリースされました。

色々な建築家さんと深くお付き合いをさせていただくようになり、建築業界は仕事の波が激しいことが悩みだというお話を多く聞くようになりました。仕事が重なる時は何軒も同時進行で設計したり監理したりすることになるので非常に忙しく、新たな依頼を断らなければならないようときがある一方、建築中の建物が一度に竣工したりしてふっと案件が途切れてしまうこともある。

一つの案件の期間も長いので、入金のタイミングもばらつきがあります。少人数で運営している建築設計事務所はなかなかその波を吸収できないことに、苦しんでいる方も多いんですね。

そこで設計事務所同士がタッグを組み、設計の仕事を互いに助け合うマッチングプラットフォームが必要だと考え、2021年2月頃にアーキタッグの構想を思いつきチームで準備を始めました。2021年11月にリリースしてから非常に好評で、多くの設計事務所の方に、発注者側と受注者側の両方で使っていただいています。

──稼働率が上がることで経営も良くなりますし、設計士の貴重なリソースを無駄にしないという意味で、社会的に意義がありますね。

それはすごく意識しています。建築設計に携わるクリエイターの方々がクリエイティブな仕事に集中していただく時間を増やすことで、日本に建築家さんが建てる家や素敵な建築がもっともっと増えていってもらいたいと思うんです。

そうなれば、それぞれの家族にあった豊かな暮らしが増えて、幸せな家族が増えると思うし、美しい建築が増えることで街並みや都市も美しく豊かになると思うんですよね。

そのためには仕事の生産性を高めてもっとたくさんの建物を作って欲しいし、建築設計事務所で働く方たちの待遇も良くなっていくと嬉しい。そして、建築家の方が家を建てるということがもっとポピュラーで当たり前の選択肢になって欲しいんです。

文・写真=嶺竜一

編集=新國翔大

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