元TBSアナウンサーという枠を超え、女性ファッション誌「VERY」のモデルやラジオ番組のパーソナリティを務める一方、ファッションブランドとのプロダクト開発やサウナの共同経営など多方面で活動する笹川友里氏。彼女が、新たに女性のキャリア支援サービスを展開する「NewMe」を立ち上げた。
2023年6月にNewMeを共同創業。笹川氏がCCO(チーフ・コミュニケーション・オフィサー)に就任し、11月には女性のキャリアや働き方を考えるメディア「NewMe Story」、転職支援サービス「NewMe Jobs」をローンチした。11月19日には記念イベントも開催され、GENDA代表取締役社長でVERYモデルの申真衣氏らが登壇、会場は参加者たちの熱気で包まれた。
笹川氏はなぜ、これまでのキャリアとはまったく異なる領域にも見える「起業」に挑んだのか。起点となった女性のキャリアに関する課題意識や気づき、そして笹川氏のキャリア観など、話を聞いた。
プロフィール
NewMe代表取締役CCO 笹川 友里
制作ADから人事異動でアナウンサーに。TBSテレビに8年在籍し、独立。現在はラジオ、ファッション誌での活動の他、プロダクト開発や女性専用サウナを共同経営。2023年6月にNewMe株式会社を共同創業。
キャリアで悩む女性たちの「相談先」がない
──NewMeを創業したきっかけを教えてください。
数年前に、共同創業者の篠原(編注:NewMe 共同創業者兼CEOの篠原さくら氏)と出会いました。彼女はサイバーエージェント、デロイト トーマツ コンサルティングを経てベンチャー企業で執行役員を務めるなど、一貫してHR領域でキャリアを積んできました。
一方の私はアナウンサーと、これまでに歩んできた道がまったく異なります。しかし、仕事への向き合い方や熱量が合致したんです。普通だったら子どもや家族のことが話題になりそうなところ、いつもお互いに仕事の話ばかりしていて。それは私にとっても篠原にとっても、初めての感覚でした。そしてどちらから言い出さずとも、気づいたら起業に至っていました。
起業する前、最初は2023年4月に自主企画でイベントを開催したんです。キャリアで一歩踏み出せない、悩んでいる女性に集まってもらう企画で、私のインスタグラムのアカウントで参加者を募集したんです。そうしたら120人ほどから応募があって。
応募いただいた方々は皆さん、仕事で実績を残すなど輝かしい経歴をお持ちでした。ライフイベントが早い段階で訪れる可能性が高い女性ゆえの特有の悩みを持つケースが多いにもかかわらず、適切な相談先がないということに、そこで気づかされました。
それに加えて私も篠原も、個人的に友人や会社の後輩からキャリアについて相談を受けることが多かったんです。それがNewMeの起業の原点です。
──NewMeではまず、Webメディアと転職支援サービスを開始していますが、転職支援ありきではなく「女性のキャリアを考えるための何かをしよう」ということで起業したということでしょうか。
そのとおりです。自信をもって働いたら可能性も広がるし仕事も楽しくなるので、世の中の女性たちにもっと自信をもってもらいたい。自信がないために視座が下がってしまっている方々の視座を引き上げたいと思っています。
ただ、サステナブルに取り組んでいくためにはきちんとキャッシュポイントを設けて、ビジネスとして成立させなくてはいけない。また本当の意味で女性たちを支援して好循環を生みたいと思い、転職支援サービスに取り組むことにしました。
繋がることで居場所ができる、重要なのは「コミュニティ化」
──6月の創業後、11月にNewMeとして初めてのキャリアイベントの開催、そして転職支援サービスをローンチしています。創業以降、11月までの期間はどのような取り組みを進めていたのでしょうか。
NewMeとして支援の対象者となる方々に対して、座談会や1on1でのヒアリングを通じ、実際に何に悩んでいてキャリアで一歩を踏み出せないのか、リアルな話をとにかく聞いていきました。ヒアリングは最終的に200人ほどの方々に協力いただきました。
その一方で、「私も悩んでいたから手伝いたい」「もっとこういうサービスがあったらみんな助かると思う」など、NewMeの取り組みを熱量をもって手伝おうとしてくれる方々が集まってくれたんです。
NewMeは私と篠原が中心の小さな会社ですが、そのまわりに人事領域の経験者など、コアメンバーとなって手伝ってくれる人たちがいます。さらにそのまわりには、NewMeのサービスを応援してくれる方々がいます。その様子を見ていると、女性のキャリア支援において「コミュニティ化」は重要なキーワードだと思いました。
4月の自主開催のイベントでも気づきがありました。事前に私と篠原で念入りに準備して、30人ほどの参加者に向けてプレゼンをしたりいっぱい喋ったりしたのですが、開催後にアンケートを集めたら「もっと横の人と話したかった」という回答が多かったんです。
11月に開催したイベントでも、参加者は人との繋がりがほしいと考えている。それは男性にない感覚だと思います。群れたいのとは異なり、繋がることで居場所ができる。それを求めている女性が多い印象があります。
キャリアを考える女性たちの要望、例えばこれまでに挙げた人との繋がり、一歩踏み出したいという思い、そして実際の転職に至るまで、循環させてすべてを叶えられるようにできれば、NewMeとしてオリジナルのポジションを築けるのではないかと思います。どんな性別の人でも活躍できる企業を紹介するといった丁寧な仕事を、当事者にしっかり寄り添ってひとつひとつやっていきたいです。
社会的に意義のある活動を続けることでポジションを確保する
──アナウンサーとして勤めたTBSを退社後、settenという会社を設立されました。こちらは、笹川さんご自身の活動を主軸とした事業を運営しています。一方で今回のNewMeは、いわゆる事業会社としてサービスを手がけています。1社目と2社目の起業のちがいはありますか。
フリーアナウンサーとして活動する場合は基本的にマネジメント事務所へ所属するので、私もテレビ局のアナウンサーを辞めるときには「どこかの事務所に入るのか」とよく聞かれました。ですが、私自身は自分で力をつけて実績を積み上げていくような仕事をしたかったんです。また、お客さんの顔が見えるようなスモールビジネスにも興味がありました。
いま振り返ると、当時から経営や起業に興味があったのだと思います。そしてsettenを設立してさまざまなプロジェクト、例えば企業とコラボレーションして洋服をつくったりサウナを共同経営したりしたのですが、結局は自分自身のマネジメント会社というかたちになりました。
そもそも、テレビ局を辞めたら仕事がまったくこなくなり、ゼロになると思っていたんです。事務所に入っていないので誰かが売り込んでくれるわけではないし、声もかからないだろうな、と。最初は全く自信がなかったのですが、ありがたいことにVERYモデルとして起用してもらったり、ラジオ番組のお仕事をいただいたりして。独立してから2年間、そのような様々な仕事のオファーを頂く中で篠原との起業もスタートしました。
settenの設立以降、「いつかきちんと事業をつくりたい」と思っていたのですが、篠原という実務ができる熱量ある人と一緒だったら、なにか形にできるかもしれないと。直感的に動き始めて、NewMeの立ち上げに至りました。
──NewMeの今後の事業展開について教えてください。
12月頃より転職支援サービスが立ち上がり、企業との成約も出始めています。ビジネスとして意義を創出できるよう、着実にやっていきます。また現在、企業との協業についても複数のプロジェクトが進行中です。
例えば2月に株式会社メルカリの他2社と共催セミナーを実施する予定です。メルカリでは説明できない格差を埋めてより良い社会にするべく、男女賃金格差に対する是正アクションを推進するなど、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の取り組みが活発に行われています。
共催イベントをはじめNewMeとメルカリでも連携した動きを模索しています。その他にも、女性活躍を推進するための取り組みを各社と企画中です。
NewMeとしてどんどん規模を大きくしていこうということは考えておらず、企業と連携しながら、しっかりビジネスとしてまわしつつ、ユーザーの入り口となるイベントや啓蒙活動にも持続可能なかたちで力を入れていきます。
NewMeというブランド、事業をきちんとつくっていくことが、直近の目標です。立ち上げて間もない会社なので、社会的に意義のある活動を続けることでポジションを確保していき、さまざまな企業の採用にも役に立つことが、いちばんの理想の姿です。
4〜50代のキャリアのために、30代はもっと失敗してもいい
──笹川さん自身が今後、実現していきたいことがあれば教えてください。
独立前のアナウンサー時代はとても楽しい20代を過ごしました。一方の30代は、子どももいるので、心を大切にしつつ自分のリズムで働いていくことがテーマだと思っています。
起業はやっぱり大変なので若干の無理は必要ですが、それでも今がすごく楽しくて。篠原とも話すのですが、「大変だけど本当に楽しいよね」と。
30代は、失敗をしていいタイミングだと思っています。4〜50代で経験やキャリアを生かして働いていくために、30代は失敗してもいいからとにかく色々な経験を積みたいと考えています。いま33歳なのであと7年は失敗しつつ、仲間と一緒に楽しく、タフに働きたかったので、まさにそれをやる環境としてNewMeはフィットしています。
NewMeに関わってくれる方、一緒に働いてくれる方たちもそういうふうに「失敗できる環境」で思いきりチャレンジしてほしいですし、ユーザーとして関わってくれる方々には、NewMeを通じて人生がちょっと明るくなる、働くことをポジティブに捉えられるようになってもらえればと思います。
文=加藤智朗
編集=新國翔大
写真=小田駿一