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YOSORO連載日本を良くする「仕掛け人たち」「私たちはすべてを解決できると思っていない」Soup Stock Tokyoの声明文から見えてきた、社会を良くするブランド作りのヒント
「私たちはすべてを解決できると思っていない」Soup Stock Tokyoの声明文から見えてきた、社会を良くするブランド作りのヒント

「私たちはすべてを解決できると思っていない」Soup Stock Tokyoの声明文から見えてきた、社会を良くするブランド作りのヒント

2024.01.11
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資生堂で国内外のブランドマネージャーを担当した後、バイオベンチャーのユーグレナでマーケティング部門の立ち上げやマスターブランド戦略を実行してきた​工藤萌氏。

“ブランド戦略”を軸に一貫してキャリアを積んできた彼女が、2023年8月にスープ専門店をはじめ複数の食ブランドを経営する「Soup Stock Tokyo」(以下、スープストック)に取締役として参画した。

スープストックは創業者・遠山正道氏が作成した「スープのある一日」という物語仕立ての企画書から生まれたブランド。スープを“共感を生むための軸”と捉え、20年以上にわたって顧客と“共感の関係性”を築き上げてきた。

そんなスープストックが2023年4月に実施した取り組みが、SNS上で賛否両論を集めた。同社が発表した「離乳食の無料提供」は子育て世代を応援する良い取り組みのように思われたが、SNSを中心に「ベビーカーで突撃してくるママが増えそうで嫌」「子どもの声が響き渡るという地獄絵図しか想像できない」といった声が相次ぎ、一時大きな騒ぎとなった。

その1週間後、スープストックは声明文を発表。謝罪ではなく企業としてのスタンスを貫く声明文には、賛同の声が多く寄せられた。この一連の対応を現場で指揮していたのが、工藤氏だ。「私たちは『世の中の体温をあげる』という理念をもとに、さまざまな立場や状況にある方々を一人ひとり抱きしめられるような包摂性のあるブランドを目指してきました。あの声明文は、その姿勢を強く現したものになりました」と彼女は振り返る。

変化のスピードが速い時代において、企業ブランドを貫き続けることは容易くない。それが社会に対したものならば、尚更にさまざまな意見をぶつけられることもある。では、ブランドづくりを通して社会を良くしていくためには、どうすればいいのか。そのためのヒントを工藤氏に聞いた。

プロフィール

プロフィール

スープストックトーキョー取締役 価値づくりユニット長​ 工藤 萌

2004年株式会社資生堂入社。営業経験後、国内・海外のブランドマネージャーを歴任。​第一子出産を機に2019年バイオテクノロジー企業の株式会社ユーグレナへ転籍しマーケティング部門の立ち上げやマスターブランド戦略を実行。事業本部長、執行役員を歴任。2023年3月よりスープストックトーキョー顧問、2023年8月同社へ入社し、取締役に就任。

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「社会への応援歌にしたい」という気持ちで炎上騒動後一週間で声明文発表へ

──「離乳食の無料提供」を発表した後、賛否両論巻き起こる騒動となりました。その1週間後に声明文を発表していますが、発表までの間にはどのようなやりとりがあったのでしょうか。

SNSでの批判的な意見は一過性のものも多いため、「反応せずに黙っている」という選択肢もありました。しかし、松尾(現スープストック社長の松尾真継氏)や経営陣を含めた多くの社員と議論するなかでこのような意見がでました。

「この騒動によって傷ついた人たちもいるかもしれない」
「今まで来てくださっているお客さまがお店が混乱しているかも、と不安に思うかもしれないし、店舗のスタッフも心配しているかもしれない」

そこで「なぜ、この取り組みをやろうと思ったのか」を表明し、変わらず安心して来ていただきたいことはもちろん、社会への応援歌にしたいと考えました。

また、SNSなどでいただいたお声にはとても考えさせられるものもあり、スープストックの存在意義を改めて考えるきっかけにもなりました。結果的に、声明文を出したことで「世の中の体温をあげる」を体現するアクションにつながったと思っています。

スープストックが発表した声明文の一部(ホームページのスクリーンショット)

──声明文を出すうえで議論になったことはありましたか。

やはり、「声明文を出す・出さない」は最も議論しました。心配していたのは、声明文を発表したことによって各店舗で働く店員たちに被害が及ばないかどうかでした。私たちも、どういった反応が起こるのかがわからず怖かったんです。発表後はそのような被害は起こらず、ありがたいことに声明文への共感の言葉をたくさんいただきました。

実は私、当時はまだスープストックの社外顧問だったんです。この騒動を機に2023年8月に入社しました。

──社外顧問として、当時はどのような関わり方をしていたのですか。

関わることになったきっかけは、松尾から「コロナ禍以降のスープストックをどのように経営していくか、議論パートナーになってもらえないか?」と声をかけられたことでした。

スープストックに入社するまでは、資生堂やユーグレナでそれぞれマーケティングやブランディングを担当していました。特に新卒で入社した資生堂時代は多忙で、会社の近くにあったスープストックの店舗にお世話になっていたんです。なので、事業だけでなくブランドそのものの魅力を知っているつもりでした。

議論パートナーとして関わっていくうちに、スープストックの組織や経営、理念が一貫していることの強さを目の当たりにしました。一連の騒動を経て「スープストックで、私も理念実現に取り組みたい」と居ても立ってもいられなくなり、入社を決めました。

「社会貢献のために売上を伸ばすことの何が悪いのか」

──変化が激しく、個人の多様性が尊重される今の時代ではさまざまな意見が寄せられるため、企業としての主義主張が難しくなっているような印象もあります。そんななかでも企業のブランド力を高めるために必要なことは何だと思いますか。

まずは、多様性の捉え方を変えたほうが良いかもしれません。私たちが考える多様性とは「さまざまな意見を持つすべての人が完璧に救われる状態」ではなく、「それぞれが得意なことを差し出して助け合っている状態」を指します。

そうやって持ちつ持たれつができる社会こそ、私たちが目指す温かい世界なんだと思っています。しかしながら多様で複雑な課題すべてを私たちが受け入れて抱きしめるには限界があります。だからといって諦めたくない。そのため、騒動に対する声明文には「私たちがすべて解決できるとは思っていません。でも、小さくてもできることもあるとまじめに思っています。」という一文を加えました。

さらにお話ししますと、社会を良くするブランドを作りたいならば、まずは事業そのものを大きく成長させるべきだと思います。

──社会貢献を前面に出す企業の中には、いわゆる“商売っ気”を感じさせないようにしている節もありますよね。

そう考える方々もいらっしゃいますね。ただ、本当に社会を良くするブランド力を強めたいならば「売上=儲け」ではなく、「売上=ブランドを強くして再投資し、救える人を増やすもの」という考えも持つべきかと思います。

企業として生き残るためには、利益を上げることが欠かせません。それに、事業規模を大きくすることで救える人も増えます。

その相関性をどう高めていくかは、とても大事なテーマです。売上を上げて事業規模を拡大すれば、再投資もできるようになります。その再投資も拡大させていく。そういったサイクルをどんどん回して、企業理念の実現力を高めていくのです。

そもそも、社会課題を解決するにあたって「寄り添う」「共感する」というものだけでは助けになれても本質的な解決まではできないと思います。誤解を恐れずに言いますと、世界の隅っこで叫んでいてもあまり意味がない。発言に耳を傾けてもらえるように行動を起こし、関係人口を増やし、事業を大きくすることは欠かせないと私は考えます。

その考えがあるうえで、私は「社会貢献のために売上を伸ばして何が悪いのか」と声を大にして言いたいですね。

──社会を良くするために、自力を強めるようなイメージですね。

そのとおりです。社会を良くすることは一筋縄ではいかず、道のりも険しいです。しっかり向き合うために、事業で結果を出すことを優先的に考えた方がいいですね。社会を良くするブランド作りとは、そういうことだと思っています。

……と、なんだか偉そうに言ってしまいましたが、私たちスープストックもまだまだ頑張らなければならないことが多いです。ビジネスでどんなことができるのか。私たちにもまだはっきりと見えていない課題はたくさんあります。なので、もっと成長していきたいです。

スープストックトーキョーが社会に増やしたい、日常のなかの“拠りどころ”

──工藤さんはいつから社会貢献というテーマに興味を持っていたのでしょうか。

資生堂時代はマスブランドのマーケティングを担当していました。そのおかげで、ブランドによる影響力や社会のうねりを常に感じていました。社会的責任や女性のエンパワーメントを強く意識し始めたのもその頃です。出産を経験したことで20〜50年後の長期的な視点で物事を考える機会が増え、次第に「マーケティング業務で得たスキルを活用して社会のために何ができるんだろう」という問いを持つようになりました。

その後、Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)を掲げるユーグレナへ転職。そのなかで「気候変動や水問題などの解決は、今の地球にとって急務。早急に手当てしなければいけないけれど、一方でその解決が見えた先、もしくは並行して『人としてどう生きるか』は大きなテーマなのでは?」と思考を巡らせるようになっていきました。

スープストックが扱う食の産業は「すでに成熟している」と言われていますが、咀嚼を困難に感じる方や食の制限がある方向けの食などは、経済合理性では手が届きづらい「負」が残っているように感じています。

そこで「世の中の体温をあげる」という企業理念のもと、どんな状況の方でも温かく受け入れ、抱きしめられる。もちろんそれだけではなくて、日常のなかでふと本来の自分に戻れたり、癒されて前向きに生きる力がもらえたりするような「拠りどころ」として、スープストックはインフラ的な役割を果たせると思っています。

『世の中の体温をあげる』という企業理念を掲げるスープストック 提供:Soup Stock Tokyo

──工藤さんがスープストックへ正式に入社してから半年ほど経とうとしています。今何を感じていますか。

「会社という枠のなかで、みんながこんなにも楽しみながら働いているってすごいことだな」と感動しています。先日はSoup Stock Tokyo Grand Prixという、店舗で働いているパートナーさんたちが「世の中の体温をあげる」ための取り組みを発表し合う会がありました。

最終選考では全国60数店舗中9店舗から選出されたお店のパートナーさんや社員が発表するのですが、みんな感動して泣いていて。驚きながらも、私も大号泣でした。仕事でこんなふうに感動できるって最高です。

全国に60数店舗を展開するスープストック 提供:Soup Stock Tokyo

また、お客さまから寄せられるお声のなかには、商品に対するものもありますが「こういうときにすごく親切にしてもらって助かりました」といったものが大半だったりします。働いている人だけでなく、店舗に来てくださったお客さまもちゃんと私たちが提供したい“温かさ”を感じてくださっている。これこそ、スープストックのブランドの強さなんですよね。

スープストックは2024年3月期で初の売上高100億円突破を見込んでいますが、実現したい世界観を考えると、もっと質的成長は追求していきたい。みんなで一丸となって事業をより良くし、もっとスープストックを広げていきたい。そして、弱っている人の助けになることはもちろん、元気な人をさらに元気にする。そうやってスープストックが社会の体温をちょっとあげている様子を想像するだけで今からワクワクします。共感し合える仲間と共に、みんなで頑張っていきたいと思います。

文=福岡夏樹

編集=新國翔大

写真=伊藤智哉

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