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YOSORO連載日本を良くする「仕掛け人たち」“世界6位”のフードロス大国・日本──元商社マンが立ち上げた、「MOTTAINAI」を世界に広める新たな仕組み
“世界6位”のフードロス大国・日本──元商社マンが立ち上げた、「MOTTAINAI」を世界に広める新たな仕組み

“世界6位”のフードロス大国・日本──元商社マンが立ち上げた、「MOTTAINAI」を世界に広める新たな仕組み

2023.11.14
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日本は人口減少国になったが、世界人口は増加の一途を辿っている。2023年の世界人口は80億人を超え、2050年には97億人になると予想されている。その結果、健康的な食事が得られていない人がそのうち31億人存在し、8億2800万人が“飢餓”状態にある。食糧危機は今後ますます深刻になっていくことが予想されている。

そんな状況にもかかわらず、WWF(世界自然保護基金)が2021年に発表した報告書では、世界では食物生産量の約4割にあたる25億トンが廃棄されているという。

倫理的な問題だけではない。食品廃棄物は焼却処分されるため、その際に二酸化炭素などの温室効果ガスを大量に排出する。世界の食品廃棄物の焼却から排出されるCO2の量は全世界で年間に排出されるCO2の10%に相当し、アメリカとヨーロッパの自動車から排出される量の2倍である。

そんな世界の中でも、実は日本は一人当たりの食品廃棄物が世界で6番目に多いフードロス大国だ。その半分以上は食品メーカー、小売、飲食店による事業系ゴミである。賞味期限は十分に残っているのに、焼却される食糧。この問題を解決する仕組みを作った、ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」を運営するクラダシ代表取締役社長の関藤竜也氏に聞いた。

プロフィール

プロフィール

クラダシ代表取締役社長 関藤竜也

1971年大阪生まれ。1995年総合商社入社。高度経済成長期の中国駐在を経て独立。戦略的コンサルティング会社取締役副社長を経て、2014年フードロス問題を解決するため、株式会社クラダシを設立。「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2021 ジャパン」関東地区代表選出。国連WFP協会評議員。食品ロス・廃棄に関する国際標準化対応国内委員会メンバー及び国際委員会メンバー。

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フードロス解決への思いを強くした「3つのもどかしい経験」

──フードロスを解消するためのビジネスを手がけようと考えた背景を教えてください。

私が人生を賭けてフードロスを改善したいと考えた背景には、3つのもどかしい経験があります。1つは1995年に起きた阪神淡路大震災。私は大阪府豊中市のマンションに住んでいて、当時大学4年生でした。家具が倒れたり、いろんなものが散乱したりして家の中が大変なことになりましたが、ライフラインなどはなんとか大丈夫でした。

しかし、テレビ報道で家が倒壊したり燃えたりしているのを見ていてもたってもいられなくなり、食料や生活必需品をかき集めて、単身で被災のひどい地域に入って行ったんです。

その時は無事に知り合いに食料や物品を渡すことができたのですが、それ以上のことはできませんでした。被災地ではライフラインがストップし、食料も不足。炊き出しに列ができ、食品メーカーが食糧支援などを行っていました。1人の大学生の私はあまりに無力で、もどかしい思いをしました。

──素晴らしい行動力と活動だったと思いますが、そうした思いもされたのですね。

2つ目のきっかけは、中国で食糧が大量廃棄されている現場を目の当たりにしたことでした。私は商社に入社し、企業の派遣留学の制度を利用して北京の国立大学に留学したのち、1998年から2000年ごろまで上海で働いていました。アパレルの工場で生産管理をしていたのですが、上海には内陸部の農村からたくさんの労働者が期間工としてやってきて、大量生産が行われているのですが、その裏側で大量廃棄の現状を知りました。規格外のものが大量に出て、ものすごい量を捨てていたのです。

まだサーキュラーエコノミー(循環型経済)という概念はなく、完全にリニアエコノミー(直線型経済)の時代。当時の中国は、それらの廃棄物や工場廃液、焼却などによる環境汚染が大きな問題になっていました。その一端を担っている自分に、やはりもどかしい思いがしました。

──世界の工場がMade in JapanからMade in Chinaに変わっていった時代ですね。

3つ目の経験が、2011年に起きた東日本大震災です。私はこの時、大学生だった阪神淡路大震災の時と違い、商社に15年勤めていて様々なつながりがありました。私は色々なつながりを使って食料や衣料を被災地に送るなど、後方支援を行いました。

ただし、この経験を通じてまたしてももどかしく思ったことは、人々の寄付に頼った支援は持続可能ではないということでした。震災後からしばらくはたくさんの資金や物資が集まり、たくさんのボランティアの方々が活動されましたが、次第に続けることが難しくなっていき、活動を終えていきました。

この3つのもどかしい経験は、私の心の中に色濃く残りました。世界には食べるものに困っている人が多くいる一方で、環境を汚染するほどの大量廃棄が起きているという現実。社会支援活動は人々の関心が集まっているうちにしかできないという現実。これはなんとかして構造を変えていくべきではないか、という思いが残っていたのです。

色々なことを調べていくうちに、日本はフードロス問題の課題先進国であることを知りました。日本の食料自給率はカロリーベースで38%。しかも日本で生産されている食肉もその飼料は海外からの輸入に頼っている。だというのに日本は523万トン(令和3年)、国民1人当たり毎日茶碗1杯分の食料を捨てています。食料の6割以上を輸入に頼っているというのに、一人当たりのフードロスの量は世界で第6位なのです。

そして実は日本のフードロスの半分以上は、生産工程で出た規格外品の廃棄や、メーカーの在庫処分、小売店での売れ残り、飲食店での食べ残しなどの事業系フードロスです。

「3分の1ルール」によって生まれる過剰生産

──日本の食品製造や流通は世界でもトップクラスのはずなのに、なぜそんなに事業系フードロスが出るのか不思議です。

その理由は、日本のサプライチェーンは小売りが優位な立場にあるという点があります。小売店は店頭の陳列棚がぎっちりと商品で埋まっていないことを非常に嫌がります。そのためメーカーに対して欠品しないよう常にプレッシャーをかけています。結果的に、メーカーは予測よりも多めに生産せざるを得ません。

日本の食料のサプライチェーンには、3分の1ルールという商習慣があります。これは、製造日から賞味期限までの期間を、製造者(食品メーカー)、販売者(小売)、消費者の3者が3分の1ずつ分け合うという考え方に基づくものです。

例えば、製造から賞味期限が30日の加工食品の場合、メーカーは製造から10日以内にスーパーに卸し、小売店は20日以内に消費者に売り切ろうとします。それぞれの期間を超えてしまった食品は、一部は卸売業者から激安スーパーなどに流れますが、多くは廃棄されてしまうのです。

であれば、メーカーは何とか値引きをして売り切ることはできないかと考えるものですが、メーカーは商品の卸値とブランドイメージを保ちたいので、通常の流通ルートでは値引き販売はしません。小売店も3分の1を過ぎたものは購入しないので、やむなく廃棄します。

──もったいないですね。

私はここに着目し、廃棄ロスになってしまいそうな食料品をメーカーから安価で購入し、ネットで販売するサイトを作ることを考えました。食品メーカーもフードロスを出したくて出しているわけではありません。

廃棄は生産コストが丸ごと赤字になるばかりか、廃棄にもコストがかかります。原価でも販売できるならしたほうが食品メーカーにとって経済的にはいい。あとは、ブランドイメージのマイナス部分を、プラスに転換してあげればいいのではないかと思ったんです。

一方で、世の中の潮目を見極めることも重要だと思いました。私は世界の動きを探り、2000年9月に国連で採択されたMDGs(ミレニアム開発目標)に着目しました。MDGsは日本ではあまり知られていませんでしたが、世界が手を結んで地球に存在する貧困や食料や気候変動や教育や医療といった、あらゆる社会問題に取り組んでいこうとしていたのです。

私は「この潮流はきっと大きくなる。きっと日本でも取り組みが始まるだろう」と考え、2014年7月に会社を設立。ECサイト「Kuradashi」の開発をスタートさせました。

メーカー100社の賛同を得ることができたワケ

──既存のサプライチェーンとは違う新しい流通を作るということだと思いますが、食品メーカーの賛同を得るのは大変ではなかったのですか?

もちろん大変でした。このサービスを消費者に利用してもらうためには、当然それなりの商品ラインナップが必要ですから、リリースする時点でメーカー100社の賛同を得ようと決めていました。メーカーの取締役や部長クラスの方にアポを取って営業に回ると、ほとんどの方が理念的には共感してくれたのですが、実際に取引の約束を取り付けるまでには、なかなか至りませんでした。

そこで、消費者との間で何かトラブルが起きた時の責任の所在をどうするかといったことを明確にしました。商品そのものに欠陥があればPL法に基づいてメーカーの責任は当然ありますが、品質以外の問題に関しては、当社が販売者責任保険に入り、責任を負う。

また、運送会社さんの協力を得てどの商品をどの顧客が購入していつ顧客の手に届いたのかというトレーザビリティをきちんと管理する。そうしたことで、メーカーの同意を得ることができました。結果として思っていたより早く100社の同意を得ることができ、2015年2月27日にサービスをリリースしました。

──その年の9月にSDGsが採択されました。

SDGsの採択から潮目が変わったように思います。100社の同意を得てリリースしたといっても、しばらくは「クラダシを使って商品を売ります」というオーダーがメーカーからたくさん入ってくるような状態ではなかったので、こちらからメーカーにお伺いする形で営業をしていて、なんとか商品を確保するような状態でした。ただ、そこからSDGsが色々なメディアで取り上げられるようになり、世の中に知れ渡っていくにつれ、メーカー側からのオーダーが増えてきた実感があります。

──どれくらいの値引き率で販売しているのですか。

商品によって異なりますが、平均するとおおよそ定価の65%オフほどで販売しています。メーカーはおおよそ原価かそれに近い金額で当社に販売してくれています。

自分のための買い物で「フードロス」を自分ごとに

──メーカーは商品のブランドイメージが下がるかもしれないデメリットがあるため、安売りはせず廃棄をしていたとおっしゃいました。そのデメリットを超えるメリットはなんでしょうか。

食品メーカーとして、フードロス問題の解消に取り組んでいるというメッセージを社会に発信できるという点です。クラダシでは支援レポートとして、これまでのフードロス削減量、廃棄が減ったことによるCO2削減量、経済効果をリアルタイムで掲示しています。

クラダシというサイトがフードロス問題に取り組んでいることをうたっているので、そこに商品を提供することが彼らにとってのフードロス削減の取り組みになるのです。

当社と協力してフードロス削減に取り組んでいることをホームページなどで公開しているメーカーもいらっしゃいます。メーカーはそれで実際に廃棄が減り、経営的にもプラスになるわけですから、メリットは大きいと思います。

──商品を購入する際、その売り上げの一部が社会貢献活動を行う団体に寄付される仕組みになっています。

ユーザーが商品を購入する金額の一部で、社会貢献できるという仕組みになっています。メーカーも消費者も当社も社会貢献できる三方良しの仕組みです。

ただ「売り上げの一部で支援します」というだけでなく、この商品を購入することでそのうちの何円が支援されるのかを明示しているのがポイントです。また、その支援先は当社が運営し社会貢献活動を行うクラダシ基金のほか、障害者の自立支援、犬と猫の保護、災害支援、自然保護、世界の子供へのワクチン提供など、様々な活動をしている団体への寄付を、購入者が選択できるようになっています。

支援の透明化のために、支援した団体からは領収書と活動レポートをいただいて掲載しています。会員さんはマイページでどこにどれだけ支援したのかを確認できます。またこの支援額の累計もサイトに公開されていて、現時点で1億1300万円を超えています。

フードロス削減に貢献し、さまざまな社会問題の解決にも貢献できる。メーカーも、消費者も、社会で困っている人も、地球環境も、全員がWin-Winのモデルなんですね。

──2023年5月にはリアル店舗もオープンしました。

初の常設店舗として神奈川県横浜市にある東急田園都市線たまプラーザ駅直結のたまプラーザテラスにオープンしました。現時点では多店舗展開をしていく考えはありませんが、対面販売することでお客様の生の声を蒐集してオンラインにも反映させていこうという趣旨で作りました。

実際に店舗でも買い物をした時にサイトと同じように購入された方が、支援先をその場で選んで支援できる仕組みになっており、自分のための買い物で世界で苦しんでいる人に貢献できることを実感できてよかった、といった声もあがっています。

──日本のフードロス問題を解決していくための今後の目標も教えてください。

ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイさんが世界に広めてくれた「MOTTAINAI」という言葉を、改めてもう一度世界に広めていきたいですね。

一人当たり食料廃棄率世界6位の日本で、様々な食料サプライチェーンの方々をクラダシの仕組みに乗っけて行き、この問題を改善していって、課題先進国から課題解決先進国になる。そして国をあげて堂々とフードロスの解決を世界に発信していけるように、成長していきたいと思っています。

文・写真=嶺 竜一

編集=新國翔大

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