検索する閉じる
YOSORO連載日本を良くする「仕掛け人たち」次世代に「自然と過ごす豊かさ」をつなぐ──SANU創業者がセカンドホーム事業で成し遂げたい想い
次世代に「自然と過ごす豊かさ」をつなぐ──SANU創業者がセカンドホーム事業で成し遂げたい想い

次世代に「自然と過ごす豊かさ」をつなぐ──SANU創業者がセカンドホーム事業で成し遂げたい想い

2023.10.06
Twitter Facebook

「自然は、事業テーマとしてはとてもセンシティブなものです。事業成長を狙うと自然を壊しかねませんし、自然に重きをおきすぎると慈善活動になってしまう。非常に難しいけれど、だからこそ面白いと思ったんですよね」

こう語るのは、“セカンドホーム”を持てるサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home」の創業者である福島弦氏だ。

SANU 2nd Homeは、初期費用0円、月会費5.5万円で日本国内の森や海などの自然の中にある11拠点62棟(2023年10月現在)の“セカンドホーム”を利用できるサービス。2021年4月にリリースを告知すると、初期の会員枠は即完売。都市から2~3時間圏内に拠点を増やしているが、それでも会員枠はすぐに埋まってしまい、現在も空き待ち状態が続いている。

2023年5月には法人向け会員制宿泊サービス「SANU 2nd Home for Business」や、拠点近くの託児施設に0歳〜12歳までの子どもを最大7時間預けられる「KIDS CARE」をスタート(現在は山梨県にある八ヶ岳の2拠点で利用可能)。さらには先日、2024年末までには新たに19拠点が加わることも発表している。

「セカンドホーム」をサブスクリプションサービスとして提供するビジネスとしての強みはもちろんだが、真の狙いはそこではない。「僕らの事業の真ん中には常に“自然”があります。あくまでもSANU 2nd Homeは、人と自然の距離を近づけることで新たなライフスタイルを作るための手段なのです」と福島氏。その背景を聞いた。

プロフィール

プロフィール

Sanu代表 福島弦

McKinsey & Companyにてクリーンエネルギー分野の企業・政府関連事業に従事。その後、ラグビーワールドカップ2019日本大会の運営に参画。2019年、本間貴裕と「Live with nature. /自然と共に生きる。」を掲げるライフスタイルブランドSANUを創業。2021年11月にSANU 2nd Home事業をローンチし、現在11拠点の自然立地で事業を展開する。北海道札幌市出身。雪山で育ち、スキーとラグビーを愛する。

この記事が含まれる連載テーマ:
日本を良くする「仕掛け人たち」 テーマの人気記事リストを開く テーマの人気記事リストを閉じる
10年続ける覚悟があるかどうか──リブセンス桂大介氏が問う、「挑戦」よりも「継続」の重要性 この記事を読む

10年続ける覚悟があるかどうか──リブセンス桂大介氏が問う、「挑戦」よりも「継続」の重要性

2023.09.19
“動物の幸せ”から“人の幸せ”を生み出す——「フレッシュペットフード」で目指すウェルビーイングな社会の実現 この記事を読む

“動物の幸せ”から“人の幸せ”を生み出す——「フレッシュペットフード」で目指すウェルビーイングな社会の実現

2024.02.27
“言わなくても通じる”の価値観が通じない時代に──「話す力」という武器を配る起業家の願い この記事を読む

“言わなくても通じる”の価値観が通じない時代に──「話す力」という武器を配る起業家の願い

2023.08.08
桃を売り、柿からエキスを抽出——福島の農村に移住した元官僚が、フェムケアコスメを開発するまで この記事を読む

桃を売り、柿からエキスを抽出——福島の農村に移住した元官僚が、フェムケアコスメを開発するまで

2024.07.02

共同創業者との議論のなかで生まれた「自然」という事業テーマ

──SANU 2nd Homeは「月会費5.5万円で第二の家を持てるサブスクリプションサービス」です。しかし、各地に拠点を建設するなど、ほかのサブスクリプションサービスに比べて難易度が高いビジネスでもあるように感じました。なぜ、あえてこのようなサービスを始めようと思ったのでしょうか?

僕も共同創業者である本間(SANU Founder/Brand Directorの本間貴裕氏)も、幼少期に自然が多い場所で育ったこともあり、土にまみれるのが好きなんです(笑)。

何より、SANUは僕らの「欲しいサービス」でもあるので、ソフトウェア開発のほか土地探しや拠点建設、お客さまとのコミュニティ作りなどはもちろん大変ではありますが、「楽しい」「好きなことをしている」という感覚のほうが勝っているんですよね。

そしておっしゃるとおり、SANUでは拠点作りや体験作りのような「ソフトウェアに置き換えられないリアルなもの」にあえて挑んでいるところがあります。

今の世の中にはソフトウェアによって生活を便利にするサービスがどんどん登場していて、逆に手触り感があるものやリアルな体験作りに関しては似たようなサービスや事業、プレイヤーは少ない。また、生活がどんどん便利になっていくなかで、自分の手で火を起こすといった自然への回帰を求めている人も増えています。そういう意味でも、SANU 2nd Homeのようなサービスは優位性を高めやすいと思っているんです。

──福島さんはコンサルティング企業やラグビーのワールドカップ運営などを経てSANUを立ち上げています。当初からセカンドホーム領域事業をしようと考えていたのですか?

どちらかと言いますと、当初考えていたのは「自然をテーマに事業をしたい」というものでした。先ほども少しお話ししたように、僕は幼少期に北海道の自然の多い土地で育ち、その良さを知っていました。幼稚園の頃は、冬はタイヤチューブで転げ回ったり、園庭で採れたよもぎでよもぎ餅を作ったり。そんな野生児のような時代が僕のルーツです。

日本には世界中の人が羨む自然がある。でも、日本人である私たちは意外とその魅力に気づいていなかったりします。僕もそうでした。高校生のときは「早く北海道を出て東京へ行きたい」と思っていたくらいです。しかし、コンサルティング会社で働いていた頃に日本の自然が傷ついていく姿を見て、どんどん考えが変わっていきました。

30代半ばで仕事に一区切りがついたタイミングで、僕も新しい挑戦がしたい」「自分がリアルに触れているものを事業にしたい」と考えていました。ちょうどそのときに出会ったのが、本間です。

──本間さんが「自然」というテーマのヒントになった?

そうなんです。ハワイで行われた友人の結婚式の前夜祭に半袖・半ズボン姿で現れたのが本間でした。当時の本間はBackpackers’ Japanの創業者で、あらゆる境界線を超えて人々が集える場所作りを企業理念にしていました。

「次は人と自然をテーマに事業をやりたいんだ」と話す本間の議論に巻き込まれながらも、自分の中で「自然」という言葉が胸にストンと落ちる感覚があったのです。そこから「自然」を軸に、事業内容を考えていくようになりました。

ただ肝心な事業内容を考えるために時間がかかってしまい……、そうこうしているうちに新型コロナウイルスが発生して緊急事態宣言も出るような事態になっていました。しかしながら事業内容の方向性が見えず、僕も本間もいったん考えるのをやめまして(笑)。Airbnbなど民泊だったり、ホテルを使って、それぞれが思い思いの場所で過ごしてみることにしたんです。

その生活が意外に面白くて。でも、民泊事業のなかには掲載されている写真と少し違ったものが混ざっていたり、自然体験を求め例えばグランピングを希望すると1泊18万円という高額な宿泊代になってしまったり、いろいろなハードルがあることに気づきました。「ならば、自分たちで欲しいものを作れるのではないか?」という考えから生まれたのがSANU 2nd Homeでした。

ちなみにSANUを月会費5.5万円としたのは、僕と本間で話し合った結果「月5.5万円ならギリギリ払える」となったからです。

SANU 2nd Homeを「受注先行型」「滞在体験重視」にした理由

──コロナ禍では二拠点生活や地方移住に注目が集まりました。ですが、そういった動き方ができるのは一部の富裕層のみという印象も拭いきれません。

別荘のような「第二の家」を持とうとすると諸経費もかかるので、ハードルが高いという側面があります。そのせいか別荘を保有している人の割合は、米国では6〜7%、欧州では約10%、日本では約0.6%になっています。

しかし、人口が500万人ほどのフィンランドでは、200万件ほどのサマーハウスがあります。これは個人で保有する別荘とは違い、さまざまな人が使用できる宿泊施設です。文字通り「夏を過ごすための家」ですが、そのほとんどが50平米以下でコンパクト。そういったリーズナブルな仕組みがあるから、フィンランドの人たちは住居以外の場所で過ごすことへのハードルが低いのです。

その仕組みをヒントに、SANU 2nd Homeは初期費用0円、かつワンクリックで始められるサブスクリプションサービスにしました。これによって田舎への移住や二拠点生活に感じていたハードルを下げ、なおかつ「ホテルに宿泊する」だけでは得られない体験を作れるのではないかと考えました。

八ヶ岳2nd SANU CABIN外観 画像提供:Sanu

──事業テーマに「自然」があると話していました。それはどのあたりに表れているのでしょうか?

SANUのミッションは「Live with nature./自然と共に生きる。」。その考えは、事業スタイルにも反映しています。

例えば、サステナビリティの基本的な考え方に「無駄なものを作らない」があります。SANU 2nd Homeでは無駄を省くために受注先行型にし、それにあわせて拠点を増やしていくことにしました。建築方法でも、整地せずに斜面でも建てられる「基礎杭工法」を採用。さらに日本古来の高床式を取り入れているのでコンクリートを大量に使う必要がなく、土壌への負荷もできるかぎり抑えています。

いかに拠点を増やしていくかも大事ですが、同時にメンバー(会員)やステークホルダーのみなさんと協力し、セカンドホームとしての心地良い滞在体験や使いやすい仕組み作りにも注力しています。

嬉しいことに、メンバー(会員)のみなさんとても楽しんでくださっているんです。特に、最初は2拠点しかなかったので、当時から参加しているお客さまには感謝しかありません。宿泊したあとのレビューでも、「次はここに拠点を作ってください」のほか、「醤油置き場はテーブルではなく冷蔵庫のほうがいいと思います」など、親身なものも多い。愛犬と一緒に過ごすための拠点を作って欲しいというリクエストもあり実際に愛犬と泊まれるキャビンも作りました。

八ヶ岳2nd SANU CABIN内観 画像提供:Sanu

みなさん、「一緒にSANU 2nd Homeを運営しているのだ」と考えてくださっている。こういった熱量は、通常のホテルの宿泊だけでは生まれにくいものですよね。

──共に育てている感覚が、SANU 2nd Homeのブランドになりつつある。

そうです。ゆくゆくはSANUのミッションである「Live with nature.」が、NIKEの「Just Do It」くらいまで社会に普及する言葉になるといいなと思っています。そのためにも、お客さまとのコミュニケーションの輪をどんどん広げていきたい。

今後発生しうる課題として「供給数が増えたときの運営をどうするか」「ただ宿泊してもらうだけじゃない体験をどう醸成していくのか」「社員とメンバーさんが直接触れ合える機会をどう作るのか」などがありますが、解決に向けてすでに動き始めているところです。

──今、SANUはどのような状況なのでしょうか?

現在は約20プロジェクトが同時進行しているような状況です。かつては僕と本間が車でいろいろ回りながら土地を見ていましたが、今ではメンバーたちが担ってくれています。

最近では、九十九里浜など海エリアにも拠点を増やしています。今までは山に車で向かってもらう拠点がほとんどでしたが、現在は都心から車で1〜2時間と好アクセス、または電車で行きやすい海エリアに拠点を増やしています。

さらに、2024年以降には鹿児島県の奄美大島や北海道のニセコにも拠点を作る予定があるんです。世界中のスキーヤーが「ここしかない」と海を超えてくるようなスキー場や、世界遺産にもなっている島など、日本のように景観が全く異なる自然遺産がギュッと詰まっているような国は他にありません。そういった日本特有の武器を活かしつつ、どんどんサービスの裾野を広げようとしているところです。

SANUで直面した自然特有の課題と、生まれ始めた解決策

──自然をテーマにしたビジネスと言うと、NPOのようなイメージを抱く人も多いです。それに、自然に関しては「自然資源をいかに守るか」や「未活用の土地をどうするか」など、さまざまな課題もあります。

バランスが非常に難しいテーマですよね。事業をグロースさせようとすると、かえって自然を壊しかねない。だからといって、利益を求めずに事業を大きくすることはできません。

おっしゃるとおり、日本の自然における課題は複雑ですし、とても範囲が広い。SANUの場所探しのためにさまざまな土地を訪れたのですが、バブル期に建てられたホテルなどが空き家状態になって有象無象に放置されている現状を目の当たりにしました。つまり、都心には人が密集し、それ以外の土地は空き家が増えて空洞化が起こっていました。

空き家問題と同じくらい深刻なのが土地問題です。「空き家が増える=土地が管理されなくなる」ということなので、当然ながらどんどん荒れていきます。そうすると山周辺だけでなく、近海の漁業にも良くない影響を及ぼしてしまうのです。

SANU 2nd Homeは、都心から近接性があり、まだ価値を見出されていなかった土地へゲリラ的に拠点を作り続けています。自然が豊かなところに建てることに意義があるので、ちょっとした雑木林でもじゅうぶん価値がある。そして、この行動は新しい社会のインフラづくりに繋がっていると思っているんです。最終的には、人間にとっての新しいライフスタイルを支えるものにできたらと考えています。

九十九里浜の最南端にある一宮町に開業したSANU Apartment 画像提供:The Boundary for Sanu Inc.

──自治体から要望があったりするのでしょうか?

自治体だけでなく金融機関からもお声がけいただくケースも多いです。自治体によっては移住促進課を持つところもありますが、なかなか移住者を増やせないという悩みを持っているのです。

その点、SANUはホテルのように毎食提供するようなサービスはないので、宿泊するときは付近の街へ出ることになります。河口湖の鳴沢村の拠点には7棟ありますが、年間利用する人たちの数が住民の数を超えています。つまり、SANU 2nd Homeが地域活性化になり、地域経済に貢献していることになる。

そもそも、メンバーさんは年間30日ほど利用してくださる方が多いので、けっこうなボリュームになるんですよね。なかには「河口湖が気に入ったので移住します」となったお客さまもいらっしゃいます。いきなり移住は難しいけれど、SANU 2nd Homeでいろいろな拠点に泊まることがトライアルにつながっていたという例も生まれ始めているのです。

真の目的は、次世代へ「自然と過ごす豊かさ」をつなぐこと

僕から話し始めてしまうのですが……。実は、自然に関して僕が最も危惧しているのは「子どもたちが自然に触れる機会が少ない」です。

──というと?

マッキンゼー時代に、待機児童問題解消のために、都内に保育園を作るプロジェクトを担当したことがありました。そのとき、都会に住む子どもたちの「自然に触れる機会の少なさ」に驚きました。

もちろん、園庭は近くの公園で遊ぶなど保育園としての環境は何も問題ないのですが、何と言いますか、どろんこになりながら思い思いに山の中を駆け回っていた自分の幼少期とまったく違っていて「これでいいのだろうか」と危機感を抱くようになったのです。

これまでは「おじいちゃん・おばあちゃんの家へ行く」ということで、休みの日に田舎と呼ばれる場所で自然に触れる機会がありました。しかし、今では「田舎にある家を引き払って一緒に住む」という選択をする人も増え、そういった機会も失われつつあります。

このままの状況が続くと、子どもたちが自然に触れる機会はますますなくなっていきます。僕はSANUを拡大することで、日本の自然における課題だけでなく、子どもたちと自然の距離を縮め、触れ合える機会を次世代へ繋いでいきたいと思っているんです。

──自然を守りつつ、心が豊かになるライフスタイルを次世代へ繋いでいくようなイメージでしょうか?

社会において、人の心の豊かさは重要です。前提として、資本には「経済的資本」「文化的資本」「自然的資本」があります。ビジネスをする上で経済的資本がピラミッドの頂点にあり、そのすぐ下に文化的資本と自然的資本が続きます。

つまり、すべての土台となる自然的資本があるからこそ、あらゆる資本が成立しているわけですね。ピラミッドの頂点だけを目指すビジネスではなく、根っこにある日本の自然に目を向け、その良さを伝えていくことが大切なのです。SANUでは、引き続きソフトウェアを活用しながら、自然的資本に挑むビジネスができればと思っています。

文=福岡夏樹

編集=新國翔大

写真=小田駿一

同じ連載の記事

ニュースレター

YOSORO Newsletter
登録すると、新しい記事のリリースやニュースレター登録者限定イベント等の案内が届きます。