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YOSORO連載日本を良くする「仕掛け人たち」「ユニコーン」だけではない成長論──社会貢献と利益の両立を目指す“ゼブラ企業”が日本を良くする
「ユニコーン」だけではない成長論──社会貢献と利益の両立を目指す“ゼブラ企業”が日本を良くする

「ユニコーン」だけではない成長論──社会貢献と利益の両立を目指す“ゼブラ企業”が日本を良くする

2023.09.21
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指数関数的な成長ではなく、社会課題の解決と持続的な経営の両立を目指す──いま、“ゼブラ企業”が注目を集めている。2023年6月、政府が「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針)」および「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、「ゼブラ企業を推進する」という方針を明らかにしたのは記憶に新しい。

「ゼブラ企業を国家戦略に位置付けたのは、日本が初めてではないでしょうか。世界的に見ても、すごくインパクトのある出来事だったと思います」

こう語るのは、2021年にZebras and Company(ゼブラ アンド カンパニー)を設立した田淵良敬氏だ。同社はゼブラ企業という考え方の啓蒙・浸透、投資や経営支援、行政・金融機関との連携を手がける。設立から2年で支援する企業数は累計30社を超えた。

ここ10年ほど、日本ではユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)を目指す傾向にあったが、なぜ今ゼブラ企業が注目を集めるようになったのか。「ゼブラ企業の考え方は日本と相性が良い」と語る、田淵氏の真意に迫った。

プロフィール

プロフィール

Zebras and Company共同創業者 田淵良敬

日商岩井株式会社(現双日株式会社)を退職後、LGT Venture
Philanthropy(リヒテンシュタイン公爵家設立インパクト投資機関)、ソーシャル・インベストメント・パートナーズ、SIIF等で国内外のインパクト投資に従事。グローバルな経験・産学ネットワークから世界的な潮流目線での事業コンセプト化、経営支援、海外パートナー組成を得意とする。2021年3月Zebras and Companyを共同創業。

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日本と相性の良い「ゼブラ企業」という概念

──ゼブラ企業とは何か。改めて、教えてください。

ゼブラ企業は持続可能な成長を掲げ、利益と社会貢献の両立を目指す存在のことです。従来のような「会社は株主のもの」「株主価値の最大化が会社の存在目的」といった考え方を重視するのではなく、消費者やサプライチェーン、地域社会など、事業に関わるステークホルダー全体に真摯に向き合い、長い時間軸での成長を目指すことが特徴となっています。

画像提供:Zebras and Company

株主の利益を優先し、短期での急成長・市場独占を目指すユニコーン企業の対となる概念として、2017年に米国の4人の女性起業家が「ゼブラ企業」を提唱し始めました。

彼女たちはZebras Uniteというコミュニティを組織し、今や世界中で25以上の支部、20000人以上のメンバーが在籍するなど、大きなムーブメントになりつつあります。

──田淵さんは2021年3月にZebras and Companyを立ち上げています。なぜ、ゼブラ企業をテーマにしようと思ったのでしょうか?

自分がゼブラ企業の存在を知ったのは、2018年のこと。英国のオックスフォード大学で開催された社会起業家向けイベント「スコール・ワールド・フォーラム」に参加し、そこでZebras Uniteの創業経緯に関するセッションを聞いたのがきっかけです。また、その内容を聞いたときに自分と同じ課題意識を抱えられていると感じました。

もともと、自分は2014年からLGT Venture Philanthropy(リヒテンシュタイン公爵家によって設立されたインパクト投資機関)でインパクト投資に携わってきました。

ただ、インパクト投資と言っても当時は第三者割当増資によるVC型の投資スタイルが主流。投資先が急成長を遂げ、いかにキャピタルゲインを得られるかが重視されていたんです。一方で、仕事を通してさまざまな起業家に出会う中で、必ずしもすべての起業家がVCが求めるような“急成長”を目指しているわけではないんだと感じました。

従来のVC型の投資スタイルでは、起業家が抱えるニーズと提供されている資金の性質がマッチしていないケースも発生している。また、長い時間軸での成長を目指す企業は投資対象として見られず、見過ごされてしまいます。そこに大きな課題を感じていました。

そんなタイミングでZebras Uniteが提唱するゼブラ企業の概念を聞き、「この考え方こそが自分の違和感を解消するものだ」と思いました。

日本は創業から100年以上を経過した“老舗企業”の数が、世界で最も多い国です。社会課題の解決と持続的な経営の両立を目指すゼブラ企業の考え方は、日本の価値観と相性が良いはずですし、社会にもっと広げていくべきだと思ったんです。

その後、2019年11月末にTokyo Zebras Uniteを立ち上げ、2021年3月に昔からの知り合いである阿座上陽平と陶山祐司の3人でZebras and Companyを設立しました。

ゼブラ企業が増えることで、日本社会はより良くなる

──立ち上げから約2年半が経ちました。手応えは感じていますか?

周囲からの期待値が高くなっているのを感じています。2023年6月、政府が「ゼブラ企業を推進する」という方針を明らかにしたのも大きな出来事でした。

Zebras and Companyは「優しく健やかで楽しい社会」をビジョンに掲げ、ゼブラ企業の認知を拡大するためのムーブメント・コミュニティづくり、社会実装のための投資や経営支援を手がけています。この2年半、活動の中で大きく3つのことを意識してきました。それが「協業などでパートナーを増やす」「メディアへのアプローチ」「省庁を通じた政策への関わり」です。

2年半ほど地道に活動を続けた結果、メディアに取り上げていただく機会も増えましたし、何よりゼブラ企業の推進が骨太の方針に盛り込まれました。

ゼブラ企業の認知を拡大するムーブメントは出来上がりつつあり、社会実装に向けての第一歩を踏み出せたように感じます。ここからの取り組みが非常に大事になってくるなと感じています。

──10年前と比べると、VCを取り巻く環境自体も変化していると思います。

少し前にシリコンバレーに拠点を構えるVCの方と話をする機会がありました。その方も「従来のような投資の方法が通じなくなってきている」と言っていました。市況的にも数年前のように急成長するスタートアップが数多く出てくる環境ではありません。

企業を取り巻く環境は変化しつつある中、VCは初めて登場してから50年間、構造自体は変わっていないんです。その状況に危機感を覚え、海外でも急成長する企業だけではなく、ゼブラ企業のような社会課題の解決と長期的な成長を両立する企業に投資する動きが増えています。

Zebras and Companyは累計30社以上に投資や経営支援を実行していますが、支援先の事業の幅広さを感じています。例えば、柿の皮を利活用したデリケートゾーンのトータルケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」を展開する陽と人、「知」による出会いを生むSNS機能も搭載した次世代メディア「esse-sense」を運営するエッセンス、ミャンマーでラストマイルロジスティクスと呼ばれる物流サービスを展開する企業の3社に投資していますが、ユニークな切り口からビジネスを展開しており、非常に面白いです。

短期的な急成長を追い求めてしまうと、展開できるビジネスはどうしても限られてしまいます。今であれば、SaaSビジネスなどがそうでしょう。テクノロジーを活用したビジネスは成長しやすいのですが、事業の切り口はどれも似てきてしまいます。

一方で、ゼブラ企業は社会課題の解決と持続的な経営の両立を目指すため、事業の切り口はさまざまです。そこが面白さでもありますし、大きな可能性だと思っています。

ユニコーン企業が数社だけいる社会よりも、100億円規模のゼブラ企業がたくさんいる社会の方が日本に合っているし、社会課題も解決されていくはずです。

「優しく健やかで楽しい社会」の実現に向けて

──ゼブラ企業が日本をより良くしていく、と。

そう思います。日本の中小企業は約358万社あり、全企業数の99.7%を占めていると言われています。帝国データバンクが全国・全業種の約27万社に対して実施した調査によれば、今なお後継者不在率は60%近い数字となっているんです。

一般的な事業承継手段としては、親族内承継が考えられますが、昨今は少子化により後継ぎとなる子供がいない・少ない、子供に継ぐ意思がないことも増えてきています。であれば、親族内承継以外の選択肢がもっと増えていいと思うんです。

例えば、都内在住の人がIターンして地域の老舗企業を継ぐというのも、ひとつの方法でしょう。そこに対して、Zebras and Companyが投資・経営支援をしていくことも十分に考えられます。

日本は世界的に見ても、歴史のある老舗企業が数多くあります。昔から、日本には社会課題の解決と持続的な経営の両立を目指す“ゼブラ的な考え”が根付いていたと思うんです。地域の強みを活かした事業を立ち上げる企業、それを支える地方銀行が数多くいて、いわゆる地域経済が出来上がっていました。

ただ、バブルの崩壊とともに銀行の統廃合も進み、銀行も長期的な成長ではなく、短期的な成長を目指す企業を支えるようになっていった。その後、VCや投資ファンドなど、シリコンバレー的な考え方が日本に入ってきて、ベンチャー企業やスタートアップが少しずつ台頭。ここ10〜20年ほどはユニコーン企業を目指す成長のあり方が賞賛されてきました。

ここ数年でユニコーン企業を目指す成長のあり方にも限界を感じている人が増え始めており、セブラ企業のような成長のあり方が注目されるようになってきています。個人的には“原点回帰”したような感覚が強く、社会課題の解決と持続的な経営の両立を目指す方が日本らしいですし、これまで積み上げてきたものづくりの強みなどを活かせるはずです。

──最後にZebras and Companyの今後の展望を教えてください。

Zebras and Companyは「優しく健やかで楽しい社会」というビジョンを達成するために必要なステップを大きく3つに分けて考えています。

画像提供:Zebras and Company

一番下のフェーズにあるゼブラ企業のムーブメント・コミュニティづくり、ゼブラ企業の成長、社会課題の見える化・解決、そして真ん中にある「社会に実装する」のフェーズは少しずつ形になってきました。ゼブラ企業を理論化することができ、多様なパートナーシップも結べています。今後はその上にある「資金供給の拡大」「ゼブラ企業・サポーターの増加」のフェーズに取り組んでいく予定です。

新たな経済政策にゼブラ企業の推進が明記されたことを契機に、ゼブラ企業の特性と可能性を理解し、それらを最大限に活用させて持続可能な経済の構築に寄与することを目指しています。

今後も誰もが社会課題解決と持続的で健康的な企業経営に挑戦できる「優しく健やかで楽しい社会」を目指し、ゼブラ企業への投資と経営支援をより一層、推進していきます。

文=新國翔大

編集=福岡夏樹

写真=小田駿一

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