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YOSORO連載日本を良くする「仕掛け人たち」窮地の旅行スタートアップが得た気付き、「デジタル化は前進していない」の先にあるコミュニケーションの価値
窮地の旅行スタートアップが得た気付き、「デジタル化は前進していない」の先にあるコミュニケーションの価値

窮地の旅行スタートアップが得た気付き、「デジタル化は前進していない」の先にあるコミュニケーションの価値

2023.09.12
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ここ10年で大きく発展しつつある、日本のスタートアップ・エコシステム。起業を志す人が増えつつある一方、ベンチャー企業やスタートアップの5年後の生存確率は「15%」と言われるなど、成功の確率は低く、その過程でさまざまなハードシングスが起きる。

突如、会社内に発生したハードシングスをくぐり抜け、成功に向けて再起を図る起業家がいる。旅行予約サイト「こころから」を運営するHotspring代表取締役の有川鴻哉氏だ。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、旅行業界は甚大なダメージを受けた。旅行業界の倒産・休廃業の数が激増。2017年設立のHotspringもコロナ禍の影響を受け、会社の売上が99.5%減少するなど、窮地の事態に追い込まれた。

「コロナ禍で会社はどん底とも言える状態まで落ち込みました。大変なこともたくさんありましたが、それでも今のサービスに繋がる新たな発見もありました」

有川氏はこう振り返る。だが、そこから3年が経ち、コロナ禍の落ち着きとともに旅行のニーズが戻ってきたことで、ようやく会社の売上も回復しつつあるという。苦しかった3年間をいかに乗り越えたのか。そして、その先に見つけた新たな発見とは一体何だったのか。有川氏の言葉から見えてきたのは、旅行業界のデジタル化のヒントだった。

プロフィール

プロフィール

Hotspring代表取締役 有川鴻哉

フリーのデザイナー・マーケターとして活動後、2012年より株式会社ペロリの創業メンバーとして女性向けメディア『MERY』の立ち上げに参画。エンジェル投資家として20社以上のスタートアップを支援しながら、2017年に株式会社Hotspringを創業。旅行予約サービス『こころから』を提供している。

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MERYを経て、起業。なぜ「旅行」がテーマだったのか

──有川さんは女性向けキュレーションメディア「MERY(メリー)」を運営していたペロリの創業メンバーとして立ち上げやグロースに携わった後、独立されました。改めて、旅行をテーマに起業をしたきっかけについて教えていただけないでしょうか?

昔から「自分で事業をやりたい」という漠然とした思いは持っていました。MERYというメディアを成長させていくことにも楽しさを感じていたのですが、一方でMERYは女性向けサービスで、自分自身はユーザーではありませんでした。次第に「自分が本当に欲しいと思うものを作ってみたい」という思いが強くなっていったんです。

MERYの運営が一区切りついたタイミングでペロリを退職し、2017年5月にHotspringを設立しました。起業するにあたって、事業テーマとして意識したのは「市場規模が大きいこと」と自分の趣味でもある「余暇を楽しむ領域」の2つです。

その結果、飲食と旅行という2つの選択肢に絞られたのですが、最終的には旅行領域で挑戦することを決めました。旅行領域は市場規模が大きいこともそうですが、実はリアル店舗での予約比率が未だに高い。また、オンラインでの旅行予約にトライするスタートアップは少なかったので、それならば自分たちでやろうと思ったんです。

そうした背景からOTA(Online Travel Agent)領域でサービスを展開することを決め、国家資格や旅行業のライセンス取得。その後、最初に全国の観光スポット・宿泊施設の情報が掲載されているサイト「こころから」をリリースしました。

突然のコロナ禍、生き残りのために実施した打開策

──その後、海外企業とのアライアンス(提携)も進んでいたと聞いています。

旅行領域における大きな課題のひとつとして、予約のオンライン化が進んでいないことがあります。実際、自分も街中にある代理店に足を運んでみたのですが、意外と疲れている顔をして旅行を計画し、予約している人が多いなと感じました。

わざわざ店舗に足を運ばなくても、同様の体験をオンラインで提供できるのではないかと考え、チャットで旅行プランの相談から宿泊予約までを一気通貫して依頼できるサービス「ズボラ旅 by こころから」を2018年5月にリリースしました。そうしたら、リリース後から2時間で4000件以上の相談が届くなど、僕たちの想像を超えるくらいの反響があったんです。

実際にユーザーからの相談を聞く中で、海外旅行の予約のニーズが強くあることも分かり、2019年4月からズボラ旅で海外旅行の取り扱いもスタートさせました。

そして、同年夏ごろから世界最大手の旅行予約サイト「エクスペディア」と宿泊施設の全在庫、さらには航空券システムの世界最大手「アマデウス」と提携することで航空券も手配できるようにしました。

海外旅行の計画から予約までをオンラインで一気にできる仕組みを構築し、12月には「こころから」にも予約機能をつけて、プラン型旅行商品の販売を開始したのです。しかし、その矢先に新型コロナウイルスが猛威を振るいはじめて……。

──旅行に行けるような状況ではなくなってしまいましたよね。

緊急事態宣言の発令に伴う休業要請や外出自粛の協力要請などの影響で、会社の売上は95.5%減少するなど、壊滅的な状況になってしまいました。

海外旅行に行けるような状況ではなくなったので、サービスのドメインも国内旅行にピボットし、Go To トラベルキャンペーンにいち早く対応するなどして、需要を取り込んでいくことに成功しました。国内の旅行代理店は規模が大きい会社が多いので、意思決定の早さ、対応のスピード感に関しては、スタートアップである僕たちに分があると思っていました。

実際、「こころから」はGo To トラベルキャンペーンに最も早く対応することで、先行者メリットを享受でき、月の流通額も億単位に伸ばせました。それはそれで良かったのですが、他社も一定の時間が経てばきちんと対応してくるようになり……。そこからは、いかに人のリソースをかけられるかが勝負になり、スタートアップ1社だけで対応するのが難しくなってしまいます。

目まぐるしく変わる国の方針に対応し続けられるほどリソースに余裕もなかったため、2021年末には国内旅行に注力するのではなく、再び海外旅行にリソースを割くことに決めました。

2021年12月に海外旅行に関する最新情報の提供を行う「海外旅行あんしんセンター」を開設し、2022年3月には「こころから」で海外旅行予約サービスの事前登録の受付を開始しました。そこから約1年ちょっとが経ち、ようやくコロナ禍も落ち着き始め、海外旅行の需要も少しずつ戻ってきていました。早い段階から需要の揺り戻しを見込んで、しっかりと準備した結果、今その波に乗れています。

「デジタル化は進んでいない」、コロナ禍で気づいた新たな発見

──約3年弱続いたコロナ禍。メンタル面でもハードだったのではと感じます。

仕込んでいたサービスをコロナ禍で寝かせなければいけなくなりましたし、僕以外の共同創業者も退職してしまいました。Hotspringは「プロダクトづくりにフォーカスしよう」という想いで始まった会社なのですが、どれだけプロダクトをつくっても利用してくれるユーザーがいない。ユーザー不在のプロダクトをつくり続けるのはメンバーもしんどかった思いますし、それなら別の会社で経験を積んだ方が将来のキャリア的にも良いだろうと思いました。

大変なことは多かったですが、その中で新たな発見もあったんです。

──新たな発見ですか。

もともとは旅行予約のオンライン化を軸に、旅行業界のデジタル化を推進していこうと考えていたのですが、コロナ禍でも旅行業界のデジタル化は思ったほど前進しなかった。年齢に関係なく、海外旅行を計画する人の多くが未だに店頭で予約をしています。

コロナ禍で旅行代理店の4割がなくなったのですが、その結果残った6割の旅行代理店にお客さんが集中してしまい、店舗での待ち時間も増えているくらいです。

3年ほど海外旅行に行く機会がなかったので、手続きなどで不安なことも多く、旅行代理店で直接相談した方がいい、という価値観になってしまったんです。

ただ、海外旅行は旅行代理店に1回行って、その場でポンと予約できるようなものではありません。ほとんどの人が2〜3回ほど行ってから予約します。何回も旅行代理店に行くうちに、予約をすることが次第に嫌になってしまう人もいました。

「旅行代理店に行かなければいけない」という漠然とした不安な思いを、いかにオンラインで解消できるか。そこを軸にサービスの内容をつくり変えていくことにしました。

コロナ禍を通して、旅行予約に求められているものが変わってきたので、僕たちとしては目指すべきものが明確になりました。今のサービスはLINE上でスタッフと相談しながら、海外旅行の計画ができ、なおかつ予約まで出来てしまうものとなっています。

「何か困ったことがあれば相談しながら、一緒に予約する」というスタンスをとっており、2022年の春ごろから販売を始め、現時点でサービスの規模は50倍ほどに成長しています

最初はデジタル化をどんどん進めていく方向性で事業を成長させていこうと考えていたのですが、僕たちが考えているデジタル化と世の中が求めているデジタル化のレベルは大きく異なるんですよね。例えば、旅行業界に関してはそもそもまだPCでの予約も多く、スマホ化がさほど進んでいないので、「まずはスマートフォンを使って予約をしてみましょう」「会話のやり取りをリアルではなくオンラインにしましょう」というレベル。まさにデジタル化の1歩目です。

「自動化」や「効率化」を求めるのではなく、海外旅行を予約する際の不安をオンライン上で解決し、オンラインでも安心して海外旅行を予約できる価値観を醸成していきたいと思っています。今はユーザー層も時間とお金に余裕のあるご年配の方が多くなっていますし、そういった方々が何の問題もなく使えるサービスにできたらと思っています。

潜在的な需要を顕在化させ、海外に行く人の数を増やす

──サービスリリース時からの変化という意味では、最近は対話型AI「ChatGPT」が大きな盛り上がりを見せています。この技術について、どう見ていますか?

ChatGPTは活用すべきものだと思っていますし、社内で検証も始めています。ただ、個人的な見解としては旅行プランの提案には価値を発揮するものの、予約部分ではまだあまり価値を発揮できる水準ではないと思っているんです。「ハワイで3日間、いい感じに過ごせるプランを教えて」と言ったら、それなりに良いプランを提案してくれるでしょう。ただ、そこから先をChatGPTで自動化しても予約が入りやすくなるわけではありません。

実際、僕たちもズボラ旅をやっている中で数千人から旅行の相談をいただいたのですが、どれだけスタッフ総出で回答し続けても、CVRは0.1%程度と、ほとんど予約には繋がりませんでした。1000人に1人が予約するかどうかというレベルです。

旅行プランの提案ではChatGPTは活用できると思いますが、そこから先のコミュニケーションは人間がやった方が間違いなく良い。僕たちも旅行の予約に関するコミュニケーションを改めて研究し直した結果、今は全く異なる次元のCVRに変化しました。

──今後の戦略は、どう考えていますか?

ようやくコロナ禍も落ち着きを見せ、海外旅行に行く人も少しずつ増えてきました。ただ、海外旅行の需要が完全に回復するのをただ待っているだけでは遅いので、僕たちから働きかけて需要を回復させていかなければいけないと思っています。

海外旅行に行きたいと思っているけれど、さまざまな理由で腰が重くなってしまう人が、世の中にはまだたくさんいます。僕たちが展開するサービスに出会えれば、途中で心が折れずに予約までできるので、今後はサービスの認知度をもっと高めていく必要がある。海外旅行の潜在的な需要は回復しているけれど、まだ顕在化していないので、そこの差分をいかに埋められるかが僕たちの役割だと思います。

コロナ禍を乗り越え、かつての日常を取り戻しつつある中で、海外旅行にはハードルを感じている人はまだまだ多い。先進国の中でも日本は海外に行く人が極端に少ない状態のままです。

「海外旅行に行くのは大変」「旅行はなるべく国内で済ませよう」など、コロナ禍で定着してしまった価値観を捨てられずにいます。海外に行く人が少ない状態のままでは、国としての損失も大きいと思うので、僕らが海外に行きやすくなるためのサポートしていき、またコロナ禍以前の活気を取り戻していきたいです。

文=新國翔大

編集=福岡夏樹

写真=小田駿一

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