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YOSORO連載子どもとテクノロジーテクノロジーが紡ぐ「家族の愛情の補助線」──創業10年のスタートアップが提供する“便利さ”だけではない価値
テクノロジーが紡ぐ「家族の愛情の補助線」──創業10年のスタートアップが提供する“便利さ”だけではない価値

テクノロジーが紡ぐ「家族の愛情の補助線」──創業10年のスタートアップが提供する“便利さ”だけではない価値

2023.10.26
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10年、20年、さらにその先の日本社会を担っていく“いまの子どもたち”。テクノロジーによって、子どもたちの可能性が広がることで、日本社会はどう良くなっていくのか。連載「子どもとテクノロジー」、今回登場するのはROLLCAKEのCXOである伊野亘輝氏だ。

ROLLCAKEでは、写真を1枚選ぶだけでカレンダー付きハガキができる「レター」をはじめ、毎月8枚までであればプリント料金無料(送料は税込み242円)でアルバムを作れる「ALBUS(アルバス)」、そして2023年9月にリリースされたばかりの、子どもの作品を写真に撮ればアプリ内でアートギャラリーができる「MUSEUM(ミュージアム)」などを展開している。

お気づきのように、ROLLCAKEでは子どもに関連するサービスを多く手掛けてきた。なぜ子どもに関連するサービスが多いのか、それらを通じて日本社会をどう良くしたいと考えているのか──。

さっそく伊野氏に話を聞くと、返ってきたのは「社会的なゴールを見据えているわけではないのです、でも……」という言葉。その続きに浮かび上がってきたのは、サービスを通じて描きたい“愛情の補助線”だった。

プロフィール

プロフィール

ROLLCAKE CXO 伊野亘輝

立教大学経済学部卒業。WEBやアプリのデザイン経験を経て、2012年クックパッド入社。クックパッドのiPhoneアプリのリニューアルを担当した後、2013年11月に独立。「子どもたちの『いま』を形に残し、宝ものにしたい」という思いからROLLCAKE株式会社を設立、「ALBUS」「レター」をリリース。「ALBUS」は子育てをするパパ・ママから高い支持を得ている。

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「これがあれば……」と思うものを作り続けてきた結果だった

──レターやALBUS、そしてリリースされたばかりのMUSEUMなど、改めて子どもに関連するサービスを多く手掛けてきた背景を伺いたいです。

振り返ってみると、子どもに関連するサービスを多く作ってきたなぁと感じますね(笑)。しかし、会社の方向性として「子どもに関係するサービスを多く作るぞ!」と言っているわけではないんです。むしろ何も決めておらず、「せっかくいろいろな技術を持つ人たちが集まっているのだから、それぞれが必要だと思うものを作ろう」というのが開発の基本スタンスです。

では、なぜ子どもに関連するサービスが多いのか。それは、12年前に僕の家族に初めての子どもが誕生したから。そのときに思い浮かんだアイデアを仲間に話し、創業に至ったのがROLLCAKEであり、最初のサービスがレターでした。

なので、僕らのサービスは生活の中で感じた「これがあればもっと良くなる」と思うものを作り続けてきた結果でもあります。もちろん、サービスをリリースする前には「本当に必要とされるのか」「自分たちのエゴになっていないか」は慎重にチェックした上で開発を進めています。

──レターのアイデアは、どのように生まれたのでしょうか?

レターは、僕個人が子どもの写真を祖父母にあたる両親に毎月送っていたことがアイデアの原型です。2014年ごろは今のように子どもの写真を簡単にシェアする手段がなく、僕の両親に「子どもの写真を見せてよ」と言われてからメールで何枚か写真を送るようなやりとりが中心でした。

しかし、それでは途切れ途切れに子どもの写真を送ることになりますし、僕からすると「送り忘れてしまった」、両親からすると「何度も連絡するのは申しわけない」となる。双方で生まれるモヤモヤを解消したいと考え、誕生したのがレターだったのです。

レターは毎月1枚、写真付きのカレンダーを作れるというサービス。スマホ内にある写真を1枚選ぶだけという手軽さと、それが積み重なることで1年分の思い出カレンダーになります。また、あえてカレンダーにすることで、送る側は「そろそろ月が変わるから送ろう」、送られる側は「カレンダーだから来月も届く」とコミュニケーションも継続できるようにしました。

一方でALBUSは、スマホ内にある写真を8枚選び、それをアルバムにできるサービスです。子どもを持つ家庭の多くが「たくさん写真を撮ったけれど見返すタイミングがない」「アルバムを作りたいが時間がない」となっている。だからこそALBUSでは、写真を選ぶだけでアルバムを作れるようにしました。

「写真を選ぶ」という工程を入れることで、親は「子どもをちゃんと見ている」となり、子どもは「親がアルバムを作ってくれた」となる。そのような気持ちの循環が生まれるようにしました。この循環が何周もすれば、10〜15年後には、アルバムは家族の宝物になっているはずです。

本当に生み出したいのは「子どもを大事にしている親」である実感

──さらにその流れから、MUSEUMが誕生しています。レターやALBUSを経て「子どもの作品」に注目した理由は何だったのでしょうか?

子どもって、工作や絵画をわんさか作り続けるんですよね。何気ない紙に絵を描いたり、折り紙やレゴブロックで大作ができたり、自由にのびのびと作り続けられることが羨ましくなるくらいです。しかし、それらを残しておくのは難しい。

レゴブロックは再構築して遊ぶことをデザインしたオモチャなので、その最たるものですよね。僕は子どもたちの作品を写真におさめておくようにしていますが、実物を捨てたり壊したりすることには多少なりとも罪悪感を持っていました。「子ども特有の感性」は、大人になるにつれて消えてしまうと知っているのでなおさらです。

子どもの作品を残すための工夫として、僕の長女が描いたイワシをキーホルダーにしたことがありました。本人はとても喜んでくれて、それを見た次女が「私が描いたやつもキーホルダーにして」と言うほど。子どもも、自分が描いた絵や工作が褒められたり、部屋に飾ってもらったりするとやっぱり嬉しいんですよね。

そういった経験もあり、MUSEUMを作る上で意識したのが「アーカイブを残す」「扱いの丁寧さ」でした。デジタルでアーカイブしていけば子どもたちの作品は残せる。けれど、デジタルでのアーカイブはあくまでも「残すだけ」なので、そのあとは何もしないことになる。それではもったいない。そこで、親子でいつまでも楽しめるようにするため「扱いの丁寧さ」として作品集にもできるようにしました。

──子どもを持つ家庭内の「困りごと」を解決するだけに留まらないようにしたということでしょうか?

困りごとを解決するためのサービスは大事です。しかし、僕らの場合は困りごとの先にある「使う人のゴール」が常に議論の中心にあります。MUSEUMに関しては、子どもの作品をアーカイブできれば困りごとを解決したことになります。

そうではなく、まずは「なぜ子どもの作品を捨てることに罪悪感を感じるのか」を考える。その結果、困りごとの根底には「子どもの感性を大事にしている親でありたい」というゴールがありました。MUSEUMは、「子どもを大事にしている親」と実感できるかどうかが肝だったのです。

──リリースしてからの反応はいかがでしたか?

先ほどお話ししたように、僕らは開発前に「本当に必要とされるか?」をチェックしています。そのうえで、コアバリューがあると判断しMVP(Minimum Viable Product、必要最小限でサービス開発を行いユーザーの反応を見ながら改善を行う方法)を経て開発に進んでいるので、少しは反応があると思っていました。そしていざリリースしたら、思った以上の反応で。同時に「みんな困っていたんだ!」と思いましたね(笑)。

すでにある「家族の愛情」に補助線を引き続けていく役割

──レターをリリースしたのは2014年2月。そろそろ10年経とうとしていますが、子どもを取り巻く環境はどう変わったと感じていますか?

少子化の波はより強くなりましたよね。少子化について、僕個人として感じているのは、ひとりの子どもにかける時間が濃くなったことです。

昭和の中期頃は「兄弟が4〜5人いる」という家庭はわりと多く見られていたようですが、今では1〜2人が一般的です。そのため子ども一人ひとりに割く時間もお金も増えて手厚くなっている。そのような変化を感じますね。

──子ども関連のサービスを作り続けてきたからこそ「日本社会がこうなるといい」と思っていることがあれば伺いたいです。

「ゆくゆくは子どもの絵が溢れるような世界になってほしい」と思っています。でも、日本社会を変えるためにサービスを作り続けているかと言うと、答えは「No」です。

僕らがレターやALBUS、MUSEUMで実現したいのは、家族みんなが、子どもが描いた絵や作品を丁寧に扱ったり飾ったり、写真を撮って笑い合ったりする世界観。その結果、日本社会が良くなればいいと思いますが……、最初から社会的なゴールを見据えているわけではありません。

言ってしまえば、僕らはサービスを通じて、家族が各々で持っている愛情に補助線を引いているだけなんです。

──補助線、ですか。

僕らがやっているのは、親が子どもに対して「ちゃんと見ているよ」が伝わるものをサービスという形にしているだけだったりします。お父さんやお母さん、子ども、おじいちゃん、おばあちゃんなど、それぞれが愛情を持っている。でも、別々に住んでいたり、時間に余裕がなかったりして、お互いの愛情に距離ができてしまうこともあります。

さらに、子どもは常に成長しているので、「一緒に過ごす時間」はどんどん過ぎていく。なんとかしたいけれど、どうしたらいいのかわからない。そこで、算数や数学で補助線を引いて解答を求めるように、僕らも補助線を引き、それぞれの家族が望む愛情のカタチを作りやすくしているのです。

──補助線を目指すこともそうですが、「子ども向けサービスならでは」の難しさもありそうです。

プラットフォーム事業と似ているところがあるかもしれないですね。例えばレターの場合、送る側と受け取る側の両方に喜ばれないと成立しません。

言い換えると、「送ってよかった」「受け取ってよかった」という喜びを生み出せないとダメなんです。僕らのサービスは、使ってくれる方みんなが喜びを感じられるものにしたい。そのための土台として「便利さ」があるという考え方です。

でもまぁ、本当に、僕らは大したことをしているわけではありません。家族の愛情とは、すでに存在しているものです。レターもALBUSもMUSEUMも、愛情と愛情の間に補助線を引いて「あ、こうすればいいのか」となってもらいたい。ただ、それだけなんですよね。

文=福岡夏樹

編集=新國翔大

写真=小田駿一

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