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YOSORO連載子どもとテクノロジーサイバーエージェント子会社が見出した「プログラミング教育」の可能性──突然の代表抜擢から10年、信じ続けたテクノロジーの力
サイバーエージェント子会社が見出した「プログラミング教育」の可能性──突然の代表抜擢から10年、信じ続けたテクノロジーの力

サイバーエージェント子会社が見出した「プログラミング教育」の可能性──突然の代表抜擢から10年、信じ続けたテクノロジーの力

2023.10.11
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10年、20年、さらにその先の日本社会を担っていく“いまの子どもたち”。テクノロジーによって、子どもたちの可能性が広がることで、日本社会はどう良くなっていくのか。連載「子どもとテクノロジー」の第2回に登場するのは、CA Tech Kids代表取締役社長の上野朝大氏だ。

CA Tech Kidsはプログラミング教育の黎明期とも言える、10年前の2013年に設立。同社は「小学生向けのプログラミング教育」を軸に、プログラミングスクール「Tech Kids School」やプログラミング体験ワークショップ「Tech Kids CAMP」を展開している。さらには、学習塾事業などを展開するスプリックスと合弁会社を設立し、基礎を楽しく学べるプログラミング教室「QUREOプログラミング教室」を全国に3,000教室展開。主催する小学生プログラミングコンテストの応募数も5000件にまで増えているという。

プログラミング教育が切り拓く、子どもたちの可能性とは。また、子どもたちにどのような影響を与えるのか。CA Tech Kids代表取締役社長の上野朝大氏に話を聞いた。

プロフィール

プロフィール

CA Tech Kids代表取締役社長 上野朝大

2010年、株式会社サイバーエージェント入社。アカウントプランナー、新規事業担当プロデューサーを務めたのち、2013年5月に同子会社として株式会社CA Tech Kidsを設立、代表取締役社長に就任。2019年より小学生向けプログラミング教室を全国展開する株式会社キュレオを設立、代表取締役社長を兼任。一般社団法人新経済連盟 教育改革プロジェクト プログラミング教育推進分科会 責任者のほか、文部科学省の各種有識者委員等を務める。

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「まさか」だった代表の就任、CA Tech Kids設立の裏側

──CA Tech Kidsは今から10年前の2013年に会社を創業しています。当時は今ほど“プログラミング教育”という言葉は知られていなかったと思いますが、創業の経緯について教えてください。

今でこそプログラミング教育の重要性は説明もいらなくなってきましたが、当時は子どもがプログラミングをするというのは全く一般的ではなく、むしろ「子どもがPCを使うなんて」という風潮すらありました。

そうした中で、なぜサイバーエージェントがプログラミング教育事業を立ち上げるのか。2013年当時から“エンジニア不足”が叫ばれており、新卒エンジニアに年収1000万円を提示するなど、IT企業間でのエンジニア獲得競争も加熱していました。日本には優秀なエンジニアの母数がそもそも少ないという背景もありますが、世界的にも似た状況にあり、欧米諸国はいち早く義務教育への導入や必修が進められだした時期でした。

実はCA Tech Kidsの設立自体はサイバーエージェントの役員会議によって決まりました。経営陣がちょうど子育てのタイミングだったこともあり、「子どもにはプログラミングを習わせたい」という話が出ていたそうです。これからの時代、プログラミングが重要なスキルになるという考えは持っている一方で、学校では教えてくれない。「みんな、どこでプログラミングを学習しているんだろう?」と。

そういった話から、2013年5月にCA Tech Kidsが立ち上がり、自分が代表に抜擢されました。自分としては「まさか会社の代表をやるとは」という気持ちが強く、青天の霹靂だったんです。

──しかし、当時はまだCA Tech Kidsのような事業は少なかった印象です。

自分自身、エンジニア出身ではないこともあり最初はすごく驚きました。「いつか社会性ある事業をやりたい」という想いは人事役員に話したことがあったので、この事業を任されたことに喜びは感じつつも、当時はまだプログラミング教育がビジネスになるとは思えず、「これは大変なものを任されてしまったな」とも思いました。

それこそ、小学生向けのプログラミング教育は大学の先生が非営利な活動としてやっているものか、個人が小規模にやっているものしかなく、普通の企業がやっているものはありませんでした。「子ども×プログラミング」の切り口は誰もピンと来ていなかったと思いますし、私もそうでした。

ですが、事業を始めてすぐに、実際に子どもたちがプログラミングに取り組む姿を見て、「これはすごく価値があるものだ」と可能性を感じました。その確信を得て、中長期で取り組む覚悟が固まりましたね。

子ども向けのプログラミング教育は「人類の進歩」のためにある

──プログラミング教育のどこに大きな可能性を感じたのでしょうか?

「教育活動としての可能性」と「ビジネスとしての可能性」の2つがあります。まず感じたのは、教育活動としての可能性です。CA Tech Kidsで開催した最初のイベントの様子を見て、「プログラミング教育はすごく意義深いものだ」と思ったんです。

プログラミングは黒い画面にコードを書き込むというのが一般的なイメージだと思うのですが、それを「本当に子どもたちが楽しめるだろうか」と思っていました。ただ、イベントを開催してみたら、子どもたちが普通にコードを書いていくんです。その姿を見て、自分が持っていたイメージが覆されましたし、これは教育活動として可能性があるなと感じました。

子どもたちはアイデアを豊富に持っているけれど、実現する手段を持っていないんです。そのため「こんなものがあったらいいな」という妄想段階で終わってしまいます。プログラミング教育の価値は子どもたちに実現手段を教えることにあると思うんです。

子どもたちが子どもたちなりに感じている課題と、それを解決するアイデア。そして、それを実現するための手段を与える。それがプログラミング教育の真髄であり、価値です。

課題といっても大層なものでなくていいのです。実際にTech Kids Schoolの生徒でも、学校で席替えを決めるのが大変だから自動で席替えを決めるアプリを作った子や、ゴルフが趣味のおじいちゃんのためにスコアをメモするアプリを作ってあげた子もいました。

身の周りの困りごとやアイデアを、「これプログラミングで解決できるんじゃない?」と自分で解決できる。プログラミングを身につけると、子どもでも課題に対して能動的に取り組むことができるんです。

そこに気がついてからは、子どもたちにプログラミングを教えることは「人類の進歩」であると思うようになりました。自分で課題解決に取り組める子どもたちが増えていったら、その子たちが成長して社会に出たら、確実に今よりも良い世の中になる。強く意義を感じています。

画像提供:CA Tech Kids

ただ、その一方でビジネスとしては先行き不透明な状態が長く続き、10年経った今、ようやく可能性が少し見えてきたような状況です。

──プログラミング教育の黎明期から10年も続けるのは胆力がいると思います。

サイバーエージェントの傘下でやらせてもらえたのは非常に大きかったと思います。普通の会社では、ここまで長くやらせてもらえなかったはずです。10年間で通期黒字になったのは2回ほどしかなく、累積で見るとまだ赤字の状態。それでも、藤田を筆頭に経営陣も長い目で見守ってくれるスタンスだったので、腰を据えて取り組むことができました。

藤田からは「儲けとか考えなくていいから」と常々言われていた一方で、財務管理担当役員からは赤字へのシビアな目線もあって。そのバランスがすごく良かったなと思います。懐広く温かい目で見守ってくれつつも、決して甘やかすわけではない。健全な感覚の中で、教育活動としても、ビジネスとしても10年間続けることで、ようやく一定の光が見えてきたなと感じています。

10年続けることで見えた光、“技術を使いこなす”ことを教えたい

──会社にとって、ターニングポイントとなったのはいつでしょうか?

当社に限らず、プログラミング教育市場全体にとってターニングポイントとなったのはプログラミング教育の必修化です。2016年に政府からプログラミング教育の必修化が正式に発表され、それを皮切りに参入企業が一気に増えました。個社で頑張っていても限界があるので、民間企業がたくさん参入し、世の中の関心が高まったという意味では、2016年のプログラミング教育必修化決定はターニングポイントだったと思います。

必修化によって追い風が吹いたことは間違いがないのですが、一方でそのころからプログラミング教育の意義が市場全体でボヤけてしまったように思います。

「プログラミング的思考を身につければいい」「論理的に考えることが大事」と表面的なことだけを言われる機会が増えてしまったんです。私たちとしては、子どもたちにテクノロジーの力を与えることで、社会課題を解決する一員になってもらう。人類のパワーを底上げすることだと思ってやっているのですが、それがだいぶ薄められた感覚はあります。

だからこそ、ビジネスという意味でも、プログラミング教育の視座という意味でも、目線を下げることなく、業界を引っ張れる存在でありたいなと思っています。

──2020年度のプログラミング教育の必修化と同時にコロナ禍もやってきました。

コロナ禍でプログラミング教育は水を差された側面はあります。一斉休校など学校現場は緊急事態の対応に追われ、プログラミングどころではない状況でした。ただ、コロナ禍をきっかけに児童生徒向けに1人1台のICT端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する「GIGAスクール構想」が前倒しで進んだことは、不幸中の幸いでした。

それによって状況が変わり、子どもたちは1人1台ICT端末を持っていることが前提になり、プログラミングを学ばせる価値は上がったと思います。ICT端末を渡して、それを何に使うのかとなったときに「ネットサーフィンしています」「勉強のドリルをやってます」「スライド作っています」というだけだと寂しい。より本質的な使い方として、端末を使いこなすのではなく、プログラミング教育を通じて“技術を使いこなす”ことを提案したいです。

自分たちの身の回りで何か困ったことがあったときに、「それってこうしたら解決できるんじゃない? やってみるね」という世界観になるのが理想です。テクノロジーの力を与えるとは、そういうことだと思います。

今までは大人が独占していたものもきちんと教えれば、意外とできるようになりますし、すでにプログラミングを使って課題解決に取り組んでいる子どもたちもいます。とはいえ、まだ一握りなので、それがもっと当たり前になる世の中にしていきたいですね。

画像提供:CA Tech Kids

啓蒙段階は終わり、今後は事業として拡大を図る段階へ

──ありがとうございます。最後に今後の展望についても教えてください。

「プログラミング教育の必修化」という社会的な動きもあり、啓蒙段階は終わりました。ここからは、いかに事業として規模を拡大し、質を向上していけるかが重要になってきます。

プログラミング教育を必修化しただけでは、子どもたちがテクノロジーを自由自在に使いこなし、それを課題解決に活用する世界はやってきません。国に丸投げせず、自分たちの意思でプログラミング教育の活動を広げていきたい。また、現在はプログラミングスクールがかなり普及してきているものの、都市部などに集中しており、地方や過疎地などでは教える人材が不足しているという教育格差の問題もあります。

その課題に対して「QUREOプログラミング教室」という別のブランドで、全国各地に3,000教室を展開しています。eラーニング教材で学ぶため、全国どこに住んでいても同じ水準を学ぶことができるのです。プログラミング教育のコンテンツ内容も常に見直し、アップデートをかけています。量と質の両面で業界をリードしていける存在になりたいと思います。

次の10年は事業としても成長させることで、プログラミング教育を持続的な活動にしていきたいです直営で運営している「Tech Kids School」は開校から10年経ち、卒業生たちが大学生になってきたのですが、海外で大きく表彰された子や、国内でクリエイターとして活躍している子、起業を目指している子もいます。そういった、テクノロジーを使いこなせる「テックキッズ」を日本、そして世界中に増やす。それが、私たちが実現したい未来です。

文=新國翔大

編集=福岡夏樹

写真=小田駿一

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