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YOSORO連載子どもとテクノロジー好奇心を解放すれば、自由に“創造”する──子どもが主役のオンラインフリースクールを開校した理由
好奇心を解放すれば、自由に“創造”する──子どもが主役のオンラインフリースクールを開校した理由

好奇心を解放すれば、自由に“創造”する──子どもが主役のオンラインフリースクールを開校した理由

2023.12.08
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10年、20年、さらにその先の日本社会を担っていく“いまの子どもたち”。テクノロジーによって、子どもたちの可能性が広がることで、日本社会はどう良くなっていくのか。連載「子どもとテクノロジー」、今回登場するのはSOZOW代表取締役CEOの小助川将氏だ。

ユニセフが2020年に公表した報告書「子どもたちに影響する世界」によると、日本の子どもの精神的幸福度は、OECD加盟38カ国の中で37位となった。

国立成育医療研究センターが2020年冬に行った調査では、小学生高学年の15%、中学生の24%、高校生の30%に、中等度以上のうつ症状があるという。2022年、小中高生の自殺者数は514人で過去最悪となった。

子どもたちがこれほどまでに生きづらい世界を、このままにしていいはずはない。“学び”から子どもたちの幸福度を上げていきたいという思いから、“SOZOW”という名のスクールを開校した小助川氏に話を聞いた。

プロフィール

プロフィール

SOZOW代表取締役CEO 小助川将

1980年生まれ、秋田県出身。大学卒業後、経営コンサルティング会社、株式会社リクルート、グリー株式会社、株式会社LITALICO執行役員を経て、2019年6月にSOZOW株式会社を創業。子どもの好奇心や創造性を解き放つボーダレススクール「SOZOWスクール」やオンライン習いごと「SOZOW PARK」を展開している。

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2023.10.26

日本の子どもの6人に1人が授業に出ていないという現実

——不登校の子や発達障害の子を含む多様な子どもたちのための、オンラインフリースクールとオンライン習いごとを運営されています。その背景にある思いを教えてください。

背景にある思いは、今の日本の学校教育制度が今の日本の子どもたちみんなには合っていないということです。実は今、日本では6人に1人の子どもが、教室で授業を受けることができていません。この6人に1人の子どもを含む、全ての子どもたちの可能性を解き放ちたい。子どもが起点で、子どもが主役の学びを作りたいという思いで、SOZOWを作りました。

——6人に1人、授業を受けられない子どもがそんなにいるのですか?

2022年度、日本の小中学生の数は935万人なのですが、そのうち不登校または長期欠席者が46万人います。それ以外に、登校扱いになっていても授業に出ていない子がたくさんいるのです。

朝学校に来て、校門をくぐって先生とハイタッチだけして帰る子も登校扱いになります。保健室にいたり、給食だけ食べたり、部活だけ出ていたりする子たちも含めると、151万人が教室で授業に参加できていません。およそ6人に1人です。

出典:2018年 日本財団「不登校傾向にある子どもの実態調査報告書」、令和4年度 文科省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」

——そんなに深刻な事態になっているとは知りませんでした。

このような問題意識を持つヒントは私の2人の子どもがくれました。上の娘は今、高校3年生なのですが、小学生の頃、学校にいくのを嫌がったんです。頑張って学校に行っても教室には入れず保健室にいた。それで私と妻は先生と面談などをしてしたのですが、驚いたことに学校教育は私が子どもの頃とほとんど変わっていませんでした。

さらに自分で教育の歴史を調べてみると、日本の公的な学校教育というのはなんと150年間ほとんど、制度の方針や授業の方法が変わっていない。現代にマッチしていない仕組みのせいで、その中で教える先生も教わる子どもたちも苦しい状況にあるのではないかと気づいたんです。

150年も変わらない画一的な学校教育の限界。子どもの個性を“真に”伸ばす教育とは

——学校教育が150年変わっていないというのはどういうことでしょうか?

日本の学校教育というのは、明治維新のころに工業化と軍隊を強くするという2つの目的のためにできたもので、多くの子どもたちに効率的に学問を教えるための仕組みです。

当時は教師の数が少なかったので、効率的に教えるために生徒の前に先生が立ち、教科書を読んで、黒板に板書して……といった授業の仕組みができました。生徒は先生と一緒に教科書を読んで、板書をノートに書き写す。そうしてみんな同じ知識を持って、同じ言葉を理解し、ミスなく同じ作業をできるようになることが、工業化と軍隊強化には必要不可欠だったんです。

当時の子どもたちにとってはそれが楽しかったんだと思います。文字を読んだり書いたりできるようになり、知らないことを知り、話せなかったことを話せるようになり、友だちがたくさんできて、当時はすごくいい仕組みだったのだと思います。

でも150年経って、軍隊が解体され、工業が発展して自動化され、知識もインターネットなどから簡単に得られるようになり、150年前の教育の手法はさすがに合わなくなっています。人は皆違う個性を持っているのに、同じ型にはめ込んでいく教育には限界が生じてきている。そのことに子どもたち自身も気づき始めたんだと思います。

そうした事実に気づいたら、いてもたってもいられなくなって、私は勤めていたグリーを退職し、いろんな障害のある方々の学習や就労を支援するLITALICOという会社に転職しました。そこで私は、LITALICOワンダーというプログラミング教室事業の責任者をしていたのですが、そこで気づきがありました。

その教室には普通に学校に通っている子もそうでない子も、いろんな子どもが来るのですが、不登校の子や発達障害のある子たちが、自分の好きなようにロボットを組み立てて、複雑なプログラムを組んで、ものすごい作品を作ってくるのです。

障害のあるなしに関わらず、子どもは本当にやりたいようにやれば、創造する力が発揮されるんです。そんな体験があって、下の息子は既存のシステムの学校に入れるのは違うのではないかという思いが膨らんで、探究やプロジェクト学習に力を入れているスクールに入れました。

そこは本当に自由な学校で、竹とゴムを使ってグラウンドの端から端までいかに物を飛ばすかというチャレンジを半年かけてしたり、割れない泥団子を作ったり。小学6年生の時には貧困世帯を救うためのクラウドファンディングを実施して日本財団に寄付をしました。息子はロボットプログラミングにハマり、小学3年生の時にワールドロボットオリンピックで7位に世界最年少で入賞しました。今は、留学先で友人たちと一緒に起業までしています。

この前、「『好きを世界一具現化する』っていうミッションに決まったよ」なんて話してきて驚きました。子どもって本当にどういう環境でどんな経験をするかということが重要で、好奇心を持ったことを親や周りがどんどん応援することで可能性が拓いていくんだな、ということを実感したんです。

子ども起点で好奇心を解放すれば、ひとりでに能力は開花する

——それから、どのような経緯でSOZOWを起業したのでしょうか。

LITALICOワンダーで私は子どもたちから素敵な体験をたくさんさせてもらい、学びました。明治維新以来の学校教育には合わない子でも、子ども起点で好奇心を解放してあげれば、ものすごく伸びる可能性があること。つまり、そういった学習を広めていけば、多くの子どもを救うことができる。しかし既存のプログラミング教室では、なかなか一気にスケールさせるのは難しいことも感じていました。

そこで、もっと多くの日本中の子どもたちに、未来の世界を見せて、好奇心を解放する体験をさせてあげたい。

結果、プログラミング教育をエンターテイメントにしたらいいのではないかと思い至りました。キッザニアのようなプログラミングのテーマパークを作ってはどうか。それならばもっと話題になって、たくさんの子どもがプログラミングに触れられるだろう。

そこで、LITALICOの中で新規事業として、プログラミングをメインとしたテーマパークを立ち上げないかという提案をしたのです。ただ残念なことにLITALICOでは実現することができませんでした。でも、僕はどうしてもそれをやりたくて、2019年6月に起業したのです。

とは言え、いきなりテーマパークは作れないので、数回の小さなリアルイベントを開催した後、2020年2月11日に「Go SOZO Tokyo 2020 Spring」というリアルイベントを開催しました。3Dプリンターを使ったものづくり体験や、ロボット体験ワークショプ、プロジェクションマッピング、飛行機シミュレーター、ドローンパイロット体験、Fortniteでの音楽制作体験などが自由にできる。

利用者の子どもの行動データをとって1週間後にその子の個性がどう変わったかを可視化するという仕組みも開発して導入しました。ありがたいことに、そのイベントには1万2000人以上の方に参加いただき、大成功に終わりました。

その後、新型コロナウイルスの流行に伴い、リアルイベントの開催が難しくなったことから、2020年の5月にメタバースを使ったオンラインスクール事業にピボットすることを決めました。

——よく事業転換できましたね。

それまで1年間かけて作り上げてきたイベントのノウハウをいったん捨てて、オンライン学習のプログラム作りをしていくのは本当に厳しかったですね。全く違うケイパビリティが求められますので。「さあもう一度最初から始めよう」という感じでした。

3ヶ月ほどでなんとかスクールのプロトタイプができてきたので、「Go SOZO」のイベントに参加してくれた1万2000人の方にメッセージを送って、オンラインプログラムに参加してもらったんです。そうしたら「オンラインでもこんなに楽しいんだ」ってものすごく喜んでくれて、ようやく自信をつかめました。

そこから資金調達ができて、開発メンバーにも何人か入ってもらってコンテンツを作り込んでいき、2021年の1月に小学2年生から5年生を対象にしたオンライン習いごとの「SOZOW PARK」をリリースしたという流れです。

多様な個性を持つ子どもたちの可能性を拓くフリースクール

——どんなプログラムなのでしょうか。

いくつかコースがあって、デジタルクリエイティブコースでは、動画制作、デザイン、ゲームプログラミングの3つのテーマを学びます。そのほかに、マインクラフトを使ってプログラミングを学ぶコースなどがあります。

子どもたちは本当にすごいんです。メタバースの中で集まってすごい作品を作り始めたり、自分でサーバーを立てたりしている子たちもいて。オンライン上だと、コミュニケーションのスタイルも選べることも大きいです。顔を出さずにコミュニケーションしたり、チャットだけで会話に参加したりすることもできるので、どんな特性を持った子でもSOZOW PARKの中だと居心地が良いみたいです。

オンラインなら、不登校の子たちや学校の学びが合わない子たちの可能性をもっと広げられるかもしれないと思い、SOZOW PARKを広げる形でフリースクールをやろうと考えました。2023年11月に正式開校した、小学4年生から中学3年生を対象とするSOZOWスクールは、日本最大級のフリースクールとなり、今では当社の主力事業に成長しました。

「学校ではずっと否定的なことを言われてきて弱みだと思っていたことが、ここでは強みになるということに気づけた」「うつ状態にあった子どもの自己肯定感が回復し、びっくりするぐらいアクティブになった」など、多くの反響をもらっています。

中学3年生の子たちが来年3月に卒業となることから、高校部門も作ってほしいという要望が多くあり、2024年4月にはSOZOWスクール高等部を開校することを決めました。

高等部は、中央国際高等学校という通信制高校と提携し、全日制と同じ高卒資格も取得できるようになっています。既存のカリキュラムにはないAIやデジタル、映像制作などを学びながら、高校の卒業単位を取るためのサポートをします。ダブルスクールのイメージですね。

——2023年の夏にはテレビ朝日と共催でSOZOW FESというオンラインイベントも開催されていました。

7日間開催のフェスでは、ゲームクリエイターやロボットクリエイターの方、社会起業家の方、YouTuber、医師などたくさんのすごい人たちがガイド役となって、20ほどのアクティビティが開催されたほか、子どもたちが主役となって、熱中していることや好きなことを世界に向けて発信する「好き活グランプリ」や、SDGsへの取り組みを発表する「SDGsチャレンジアワード」なども開催されました。

——最後に小助川さんが考える、日本をより良くするための考えがあれば教えてください。

繰り返しになりますが、子ども一人ひとり違う個性があるので、150年前に作られた画一的な学校教育の仕組みに、合う子も合わない子もいて当然だということを知ってもらいたいです。5教科全て平均的に勉強しなくたっていい。以前の大学受験は8割以上が普通受験(試験を受けて合否が決まる受験)でしたが、今は普通受験は5割を切っているんです。

合う子は学校教育の中で個性を伸ばしていければいいと思いますが、合わない子のご家族も、落ち込んだり自分たちを責めたりする必要は全くありません。これからの社会は、テクノロジーの発達によって今まで以上に選択肢があるし、それに伴って生き方もさらに多様化していくはずです。

リアルでもオンラインでも、好奇心の広がるままにいろんなことに触れて、自分の好きな生き方を自分で切り拓いていくことができるんだ、ということに気づいてもらいたいですね。

文・写真=嶺竜一

編集=新國翔大

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