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YOSORO連載子どもとテクノロジー「人生で一番大事なものは家族」と起業を決断したユニファ土岐氏が語る、日本が取り戻すべき「幸せの形」
「人生で一番大事なものは家族」と起業を決断したユニファ土岐氏が語る、日本が取り戻すべき「幸せの形」

「人生で一番大事なものは家族」と起業を決断したユニファ土岐氏が語る、日本が取り戻すべき「幸せの形」

2024.10.31
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10年、20年、さらにその先の日本社会を担っていく“いまの子どもたち”。テクノロジーによって、子どもたちの可能性が広がることで、日本社会はどう良くなっていくのか。連載「子どもとテクノロジー」、今回登場するのはユニファ代表取締役CEOの土岐泰之氏だ。

「心の豊かさ。これが今の日本社会が取り戻すべき、幸せの形だと思うんです」

取材の冒頭、土岐氏はこのように語る。ユニファは保育現場の業務負荷軽減、保護者コミュニケーション支援、施設の運営支援をテクノロジーでサポートする総合ICTサービス「ルクミー」を提供し、保育・育児関連の社会課題解決を目指す“Childcare-Tech”領域のスタートアップ。サービスの利用数は累計で2万件を超えている。

「子育て」に関してはネガティブなニュースも多い日本。少子化には歯止めがかからず、子どもの虐待や保育現場の人員の逼迫などのニュースも相次いでいる。

そうした状況を改善する鍵を握っているのが「テクノロジー」だと話す土岐氏。テクノロジーがどのようにして家族・保育の幸せを拡張していくのか。話を聞いた。

プロフィール

プロフィール

ユニファ代表取締役CEO 土岐泰之

2003年に、住友商事に入社。リテール・ネット領域におけるスタートアップへの投資及び事業開発支援に従事。その後、外資系戦略コンサルティングファームであるローランドベルガーやデロイトトーマツにて、経営戦略・組織戦略の策定及び実行支援に関与。2013年にユニファを創業。全世界から1万社以上が参加したスタートアップ・ワールドカップにて優勝したことに加え、採用率が全世界で2.5%未満であるEndeavor(エンデバー)起業家に満場一致で選出されるなど、国内外で高い評価を受ける社会起業家。

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「家族」がテーマであれば、使命感を持てる

学生時代から「起業」への思いを持ち続けていた、という土岐氏。新卒で住友商事に入社し、スタートアップへの投資や事業開発支援に従事した経験や、外資系コンサルティングファームでの経験をもとに事業テーマを考えたが、ピンと来るものがなかった。

「自分が他の人よりも優秀な部分ではなく、違う部分は何かないか」

さまざまなアイデアを考える中、土岐氏が“他の人と違う部分”として思い浮かんだテーマが「家族」だった。きっかけは土岐氏の子育ての経験にある。

住友商事から外資系コンサルティングファームに転職した際、子どもが生まれたものの共働きだったこともあり、想像以上に子育てが大変な毎日だったという。

「子どもが生まれる前は職場の都合もあり、自分と妻は東京と愛知で離れて暮らしていました。妻の育休が終わったタイミングで、今後どうやって子育てをしていくか。妻と話し合った結果、自分が退職して妻のいる愛知県豊田市に移住することにしました。このとき、自分の人生で一番大事なものは“家族”であると決断したことが今に繋がっています」

移住後も外資系コンサルティングファームの名古屋支社で働きながら、事業テーマを模索し続けた。太陽光発電のビジネスをやるか、もしくは起業から離れて政治家になるか。いろんな選択肢を考えたが、どれも手触り感が持てなかった。

「自分は家族のことを第一に考えてきた自負があります。家族をテーマにした事業であれば、使命感を持ってやれると思いました」

 画像提供:ユニファ

保育施設内での様子に着目、「写真」からサービスを始めたワケ

2013年に保育・育児関連の社会課題解決を目指すユニファを創業した土岐氏。「最初はMIXIが提供する『家族アルバム みてね』のようなサービスを考えていた」というが、当時はMIXIがスマートフォンで撮影した写真を使い、毎月1冊無料でフォトブックを簡単に作成できるサービス「ノハナ」を展開していた。

競合プレーヤーもいる中で、似たようなコンセプトのサービスをやるかどうか。あらゆる可能性を含めて考える中で、「パパとママが撮影した写真や動画だけではコンテンツとしてすぐに飽きてしまうのではないか」という思いもあった。

「自分自身、保育施設から帰ってきた子どもに『今日は何をして遊んだの?』と聞いても、その日に遊んだことを忘れてしまっている。そこで家族のコミュニケーションが断絶されてしまっている感覚があったので、パパやママなど保護者が持っていない保育施設の中での子どもの様子がわかる写真や動画はすごく価値があると思ったんです。園内での今日の様子が見れたら、家族のコミュニケーションをもっと豊かにできるはずだと思いました」

そんな課題感を背景に、保育施設での写真をネット販売する「ルクミーフォト」を開発。まずは保護者が保育施設での子どもの様子を写真を通して見れるようにした。

デジカメで撮影した写真を現像して壁に貼り出す——そんな運用が長く続いていた保育施設において、新たなデジタルツールを導入してもらうハードルは高い。「最初は思うように導入が進まなかった」と土岐氏は振り返る。まずは愛知県の経営者同士のネットワークを使い、30〜40代と園長の年齢が若い保育施設から試験的に導入をしてもらった。

地道な取り組みを続け、着実にルクミーフォトの導入施設を増やしていったユニファ。同社にとってブレークスルーのポイントとなったのは、AIの画像認識機能を活用し、登録されている子どもの顔と撮影された写真の顔を照らし合わせ、一致する写真を保護者の画面で上位に表示する機能を搭載したことだ。

画像提供:ユニファ

その機能がきっかけとなり、保育施設事業などを手がける大手企業グループへの導入が決まった。大手企業が導入を決めたことが呼び水となり、ルクミーフォトを導入する施設の数が増えていったという。

ルクミーフォトから始まり、その後は登降園状況や検温、睡眠、食事、排便等のデータ管理にもサービスの幅を広げ、総合的な保育支援サービス「ルクミー」シリーズとして展開。サービス利用数は累計2万件を超え、約70の自治体に導入されている(2024年8月時点)。

テクノロジーの力で、心と時間の余裕を創出する

ユニセフ(国連児童基金)が2020年に公表した報告書「子どもたちに影響する世界」によれば、日本の子どもの幸福度は38の先進国のうち20位、さらに精神的幸福度については、38か国の中で37位とほとんど最下位の結果となっている。

「統計情報などを見ていると親、子ども、保育者なども含めて、子育てに関わる人たち全員が幸福度を感じにくくなっているのが日本の現状です」

最近では、保育施設で子どもが虐待されてしまうニュースも頻繁に目にする。テクノロジーの活用によって、家族の幸せ、保育の幸せはどう実現されるのだろうか。

「なぜ、全員が幸福度を感じにくくなっているかと言うと“余裕がない”からです。本当は全員が子どものことが好きなはずですが、余裕がないあまりに子どもに厳しく当たってしまう。親は家事・育児の分担や子育てにかかるお金、保育者は書類作成や行事で使う造作物の作成などのノンコア業務の多さから、物理的・精神的な余裕がなくなってしまっています」

そうした状況を改善するのが「テクノロジー」である、と土岐氏は考えている。子どもたちの登降園管理やお昼寝(午睡)時の見守り、保育日誌や保育計画の作成、保護者や自治体へ提出する書類作成、保育者のシフト管理など、多岐にわたる保育者の業務をテクノロジーを活用して効率化することで、保育者の心と時間の余裕を創出していくことを狙っている。

現在、ユニファは「スマート保育園・スマート幼稚園・スマートこども園」構想を掲げ、IoTや生成AIなど最新テクノロジーの活用にも力を入れている。ルクミーのサービス導入前後で、ひと月当たり約65%の業務時間削減を実現した施設もあるという。

「保育者の方から『ルクミーのおかげで心と時間に余裕が生まれました』という言葉や、保護者の方から『ルクミーフォトのおかげで保育施設での子どもの様子が可視化されて幸せな気持ちになった、コミュニケーションの機会が増えた』という言葉を聞くと、このサービスをやっていて良かったという気持ちになります。そして、こういう心の豊かさこそが今の日本社会が取り戻すべき幸せの形のような気がするんです」

日本の出生率は年々減少傾向にあり、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は2023年に過去最低の1.20を記録した。育児に対する経済的負担や子どもを取り巻く社会情勢などから、子どもを持つことに消極的なっている人たちも少なくない。

「やっぱり、子どもと向き合う時間は心の豊かさにつながっていくものという認知やイメージに変えていくべきだと思うんですよね。今後は保育AIアシスタントのようなものをつくり、保育施設の中だけでなく、家庭での育児もサポートする機能を提供したいと思っています。子育ての“大変さ”だけでなく、子どもの成長を見守る楽しさや幸せを感じてもらいたいですね」

データ活用でパーソナライズされた教育の提供も視野に

2024年8月には、シリーズEラウンドで5億円の資金調達を実施するとともに、MIXIが提供する「家族アルバム みてね」とのプロダクト連携も発表したユニファ。ルクミーを利用していない保育施設向けに導入費用無料で「ルクミーフォト」等を利用できる新プラン「ルクミー みてねプラン」の開始を皮切りに、今後はサービス内での連携も深めていくという。

みてねとの提携をきっかけに、新規の導入施設数を増やしていくとともに、みてねを利用する2000万人以上のユーザーにもルクミーの認知を高めていく狙いだ。一方で、調達した資金をもとにルクミーシリーズの新規プロダクト開発にも取り組んでいく。

土岐氏が思い描いているのは、ルクミー内に蓄積されたデータの活用だ。

「幼児の成長促進分野はブラックボックス化している部分が多いです。どのような体調管理が適しているか、どんな教育を受けさせるべきか。そういったものは、家庭や保育施設においてほとんどが体系化されておらず、経験や感覚に頼らざるを得ない状況にあります。そこでルクミー内に蓄積された写真画像や成長観察・コメントなどの管理記録をデータとして分析・活用すれば、一人ひとりの健康状態や発達状況を可視化しながら、パーソナライズされた教育を提供することもできます」

2023年4月に「こども家庭庁」が発足し、2025年度予算の概算要求は一般会計と特別会計をあわせると総額は6兆4,600億円もの規模になっている。この予算には保育施設や放課後児童クラブでのDX推進や、保育施設の見学・入園申請のデジタル化、保育士の負担軽減などを目指す施策が盛り込まれている。今後、子育て世代の支援や保育のDXなどに政府はより力を入れていくことになるだろう。

そうした社会全体の後押しを受けながら、「家族のつながり溢れる世界を創っていく」というユニファの挑戦のスピードは、ここからさらに高まっていくはずだ。

文=新國翔大

写真=小田駿一

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